メランコリックラバー
「雨は嫌い。」
「…でしょうね、」
ソファーに横になって悩ましげにしてる姿を見れば誰だって分かる。無防備に気怠げにしている君を犯してしまおうか。(あるいは殺してしまおうか、)
今の君なら何をされても抵抗しないのでしょうね、しかしそれでは詰まらない。爪を立てて牙を向けて、腕を折られても足掻いてほしい。
だから今は手を出しません。
「電気も付けずカーテンも開けずに、陰気臭いですよ。」
せめて部屋が明るくなれば少しはましになるだろう、と親切心で電気のスイッチに手を伸ばす。
「付けるな。」
途端に彼の口調がきつくなる。
「なぜ?」
「いいから、付けるな。」
「雲雀君、泣いています?」
「僕が泣くと思うか?」
「思いません。でも、」
声が震えていたから、と続けることは出来なかった。(なぜ?)
僕が続きを発することがなかったので応接室は沈黙になり、後に残ったのは外の雨の音だけとなった。
僕は馬鹿みたいに突っ立って動けずにいた。いつもの雲雀君らしくなくて途方に暮れていたのかもしれません。
行き場を失った右手を動かすことも出来ず、雲雀君の側へ近寄ることも出来なかった。
空気の重さと雨の音にどんどん頭がクラクラしてきた。
「君、しゃべっててよ。」
頭がぼーっとしてきたころ雲雀君の声が応接室に響いた。
「雨の音、聞きたく、ない。」
腕で目を覆い隠して視界を遮っている雲雀君は何かに怯えているようでした。(彼はこんなにも小さかったか?)
それは、まるで世界の全てを拒絶しているようにも見えたので、僕は彼の要望通りにたわいのない話しをして雨音を消してあげることにしました。
犬と千種の喧嘩の内容、寡黙な少女の話し、今日の晩ご飯は何でしょうかね、という素朴な疑問から早く全て壊してしまいたい、という物騒なことまで。
明日晴れたら放課後デートしましょうか、と半ば冗談で約束を取り付けたら、どうだろ、と対話にならない返答をくれました。
返事をした彼の声は震えたままだった。
(明日、晴れますように。)
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