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それからも、概して静雄は優しかった。
メールも電話も応えてくれるし、相談には真摯に付き合ってくれる。

つい先日なんかは、池袋で姿を見付かったのに追いかけてこなかった。
遠くで目が合って、は、と息を呑んだ臨也からついと目を逸らすと、トムの方を向いてから目配せした。

協力してくれているのだ。
気付いた瞬間胸が熱くなって、思わず笑いかけると静雄もほんの少しだけ微笑んでくれた――ような気がした。

結局その日は遠くから見つめるしかできなかったけれど、それだけで臨也は胸が高鳴った。
見つめるだけで幸せだったしこんなにドキドキしているのだから、実際に話してみたらどうなるのだろう。

そうは思っても、そんなシチュエーションはちっとも想像できなかった。
臨也がトムのことを知らなさすぎるからなのかもしれない。

会って話してみればどうだ、と静雄は言ったが、そんなことはとても無理そうだった。
遠くから見つめるだけでドキドキしてしょうがないのだから、実際に会ったりしたら緊張して一言も話せないかもしれないし、心臓がもたない。

メールならどうだ、と静雄は言った。それもどうだろう、と臨也は思う。
実際に会ったこともないのにメールだなんて、なんだか中学生や高校生の恋愛ごっこだ。
それか出会い系か。
そもそも臨也もトムも男だ。不自然に決まっている。

それに不思議なことに、臨也もそこまで積極的にトムと交流しようとは思わなかった。
両思いになりたいとも思わない。
遠くから見ているだけでいい。
静雄がそんな臨也に付き合ってくれているからなのかもしれない。

毎日のようにメールや電話で相談する。
それでその日のトムの様子を聞いて、それだけで満足で、満ち足りた。

これこそ恋愛ごっこだ。
それでも良かった。
臨也は幸せだった。





「――ご機嫌だねえ、臨也」

久々に新羅の家に遊びに行くと、新羅は湯気の上がるカップを両手に持ちながらそう言った。
中身はコーヒーだ、香りで分かる。

「……そう見える?」
「見えるね。今度は何を企んでるんだい?」
「何も企んじゃいないさ。失礼な奴だなあ」

カップを受け取りながら、臨也は笑う。
ブラックだ。
新羅はそれにミルクを入れながら、相変わらず読めない顔でテーブルの椅子をひく。

「君の機嫌が良いときは、大抵誰かの不幸の始まりじゃないか」
「否定はしない。――でも、悪巧み以外でだって俺が喜ぶことはたくさんあるよ」
「例えば?」
「恋とか」
「――恋ときた!」

予想通り瞠目する新羅に気を良くして、臨也はフフンと笑った。

「そりゃまあ、おめでたいことだ。一応お相手を聞いていいかな」
「トムさん」
「……は?」

あんなに隠していたのに、なぜだかあっさり言えてしまった。
臨也にも分からないが、静雄に打ち明けたのだから他の誰に言っても同じことだと思えたのだ。

「田中トムさん。シズちゃんの上司の」
「はぁぁあああ!?」

大袈裟に驚く新羅に「男だけどそれがなんだよ」と唇を尖らせると、「そんなのは些事だよ!」と叫ばれる。
だったら何が問題だと言うのだ。

「臨也! 君、本気かい!?」
「……本気だよ。なんなの、シズちゃんでもそんなに驚かなかった」
「静雄にも言っちゃったの!?」
「大丈夫だよ。怒り狂うどころか協力までしてくれて」
「協力だって!? 君は正気か!?」
「――さっきからなんなんだよお前! 俺がトムさんを好きでシズちゃんに協力してもらっちゃ悪いってのかよ!」

段々腹が立ってきて声を荒立てると、新羅は信じられないとでも言うような目で臨也を見て、テーブルを叩くとほとんど悲鳴のように叫んだ。

「臨也! 君はメチャクチャだ!」

なんでだよ。



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