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一言で言えば、予想外に静雄が「優しい」ということである。


静雄からアドレスを貰って、さっそくその日の内に連絡をとって、するとそのアドレスは実は嘘でした――なんてことも特になく、普通にメールは返事が返ってきて、そのことに臨也はいたく感動した。

ありがとう、嬉しい。
本当に嬉しい。

感動をそのまま素直に伝えれば、返ってきたのは「そうか」の一言で、たったそれだけに臨也はまた深く感動した。


ねえ、トムさんってどんな人なの。
好きな食べものは。
よく行くお店は。
……好みのタイプは?

舞い上がって間を開けずに色んなことを聞いていると、ふとメールの画面に不規則な数字が並んで、その下に「電話しろ」という簡潔な命令文が添えられている。

緊張しながらもその番号に掛けてみると、「もしもし」と耳慣れた声が機械越しに鼓膜を揺さぶった。
臨也もよく知る静雄の声だった。

『……もしもし』
「…………」
『もしもし』
「…………」
『……おいっ、手前臨也だろ? さっそく無言電話とは良い度胸じゃねえか、ああ?』
「あっ、違う……違う、そうじゃなくて……」
『……なんだよ。喋れんじゃねぇか……』
だったらちゃんと返事しろよ、と電話の向こうで静雄がぶつぶつ文句を言うのを聞きながら、臨也は無意識に、耳に当てた携帯を握る手に力を込めた。

「……シ、シズちゃん。なんで、電話……」
『ああ? この方が早いと思ったんだよ。お前アレコレ聞きやがって』
「ご、ごめん……」
『謝んなよ面倒臭ぇな……で?』
「え?」
『なんかねぇのかっつってんだよ。さっきので終わりか? 電話代が勿体ねえだろうが』
「あ、あるっ! あのっ、あのさ……」

語尾が弱まっていく。臨也は大きく息を吸って、吐いて、でも頭の中は真っ白で、携帯を握ったまま固まってしまった。
心臓がドキドキいっている。何も考えられない。
向こうまで緊張が伝わっているのか、静雄も臨也を急かすようなことはせず、たっぷりじっくり時間をかけて、ようやく臨也は口を開いた。

「あのさ……嫌じゃ、ないかな……」
『……何が?』
「だって、さ……俺、男じゃん……おかしいよね、なのに同じ男を好きになる、とか。だから、もしかしたら……気持ち悪い、とか……」
『そんな人じゃねえよ』

キッパリと言い切られて、臨也は言葉に詰まった。
見えているわけでもないのに、今の静雄がいたく真剣な表情でいるのが手に取るように分かる。

『あの人は、んなくだんねぇことで人を判断するような人じゃない』
「……あ」
『だからお前も、くだんねぇことでウジウジすんじゃねえぞ』
「……うん、ありがとう……。ねえ、それってつまりさ……シズちゃんも」
『あ?』
「だからさ、それってシズちゃんもさ……俺のこと気持ち悪いとかって、思ってないってこと?」
『……分かるだろ、言わなくても』

ぶっきらぼうなその言葉に、なんだか救われたようだった。気持ちが軽くなっていく。
まるで魔法のようだ、と思って、同時に、これが恋というものなのだろうか、と考える。
こんなにあたたかな気持ちは初めてだった。

「ありがとう、あのさ……」
『……んだよ』
「優しいよね、シズちゃん。……俺のこと、嫌いなのに。嫌いな、俺にも」
『……お前も、俺のこと嫌いだろうが』
「うん、そうだね……」

それからまた二、三と言葉を交わして、臨也は静雄との初めての電話を切った。
その後もなんだか気持ちがふわふわしていて、とてもあたたかい。

これを幸せと呼ぶのだろうか。
これを恋というのだろうか。
同時に、心臓がうるさいのは少しだけ、苦しいのだけれども。


相談しただけでこんなにドキドキして、こんなに幸せになるのだから、臨也はきっと、田中トムに恋をしているのだろう。
自分の中でそう結論付けて、臨也は握りしめた携帯に目を落とすと微笑んだ。



あきゅろす。
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