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15

それからも、臨也は静雄からの連絡の一切を無視した。
毎日だって静雄は臨也に電話をした。携帯が鳴らない日はなかった。

もしかしたらトムから話を聞いたのかもしれない。
でもだったら、だからこそ臨也のことはもう放っておいてほしい。
今まで散々迷惑をかけておきながら勝手かもしれないが、また静雄と会って平静を保てるか自信がなかった。

「だからさ、つまり後悔してるんだろ?」

まるで勝ち誇ったように新羅は言って、それから苛立ちを殺すような顔で笑った。

「それでこっちに八つ当たりかい? セルティに大量の仕事押し付けてさあ、最近全然この家に帰ってきてくれないんだけど?」
「報酬は払ってるだろ」
「君なんかから貰わなくたってお金なら十分間に合ってるんだよ、本当は」
「そんなにピリピリするなって」
「君のせいだろ」

臨也の腕の包帯を巻き終えると、新羅はこれ見よがしなため息を吐いた。
この男は数少ない友人にも容赦をしない。

「まあ大した怪我ではないよ。止血と消毒だけはしといた」
「悪いね。血を垂れ流しながら街を練り歩きたくはなかったからさ」
「今度は何したの?」
「別に。チンピラに絡まれただけ」
「絡まれるようなことを君がやったんだろ」
「さあねえ」

不覚にも一閃食らってしまったナイフの切り傷がジクジクと痛む。
巻いてもらったばかりの包帯にも、さっそく既に血が滲んでいた。

「いきなりうちに来るから何事かと思ったけど……その辺のチンピラにやられるなんて、君もそろそろ年なのかな?」
「ちょっと油断してただけだよ」
「実に小物臭い言い訳だね。静雄が気になるんだろ?」
「…………」

どう答えていいのか分からず黙り込んでいると、呆れたように新羅が息を吐く。
だって仕方がない。
せめて放っておいてくれればいいのに、静雄が毎日だって電話なんてしてくるものだから、臨也だって静雄のことを中々忘れられないのだ。

「ほーらね。だから言っただろ、後悔するって」
「……してない……」
「ふーん。まあそういうことにしておいてもいいけどさ」
「シズちゃんから何か聞いたの?」
「君と連絡が取れないってことだけ。それでなくたって様子は変だよ」

新羅が包帯やピンセットをしまっていく。
あれからトムとも会っていないから、静雄がどこまで知っているのかは分からない。
トムの口が軽いということはないだろうが、静雄に話していてもおかしくはないという気もする。

「俺さあ、フラれたんだよね。トムさんに」
「え、好きって言っちゃったの!?」
「言った」
「吃驚仰天、空前絶後の馬鹿だな君は!」
「うるさいよ新羅……」

最早言い返す気にもなれない。
そして実際、臨也の行動は軽率だった。

「君みたいな馬鹿によく静雄は耐えたと思うよ……いや、馬鹿同士だったから良かったのかな」
「そろそろ殴るぞ」
「あ、でもそういう返し方をするってことは、馬鹿の君もそろそろ自分の愚かさに気付いたってことなのかな」

後悔すると言っていた。
勘違いだと言っていた。
そんな新羅の言葉に取り合おうとしなかったのは臨也自身だ。

「まあ確かにさ、実際シズちゃんはよく堪えたと思うよ。俺のこと嫌いなのにさ……」
「え」
「え?」

バッと勢いよく新羅が救急セットから顔を上げて、驚いた顔で臨也を見た。
そのまま数秒の間二人で見つめ合う。

「え、何?」
「いや、君こそ何? え? 何かもう君たちがどこまで進展したのか全く分からないんだけど」
「進展って何だよ」
「いやだからさ……え? 君達は行動がでたらめすぎて俺には把握しきれないんだけどさあ、何? 臨也が好きなのは誰?」
「……なんで蒸し返そうとするんだよ。もういいだろその話は」
「いやいやここはハッキリとさせておこう。じゃないと僕の頭がこんがらがってわけ分かんなくなりそうだ」
「なんでお前に言わないといけないんだよ」
「協力するよ?」
「いらないっつの……」
「いいから言いなって!」

珍しく強引に話を進めようとする新羅に、臨也は観念することにした。
どっちみち、多分新羅には気付かれている。

「俺はトムさんが好き」
「…………」
「……だと、思ってました、が……」

ああ、やっぱり恥ずかしい。

一気に言ってしまった方が早いとは分かっているのに、どうしても羞恥で口が動かない。
新羅がやけに真面目くさった顔でいるのもいただけない。
かといって、ふざけた顔でいられるのも腹が立つが。

「えーと、本当は……」
「うんうん」
「本当は……俺は……」

顔が熱い。なんだこの羞恥プレイ。
久し振りのこの感覚に戸惑いながらも、臨也はなんとか最後まで言い切った。

「シズちゃん、が、好きです」



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