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恋とは無縁の人生を送ってきた。
そんなもの興味もなかったし、だから自分が誰かに恋をすることも一生ないだろうと思っていた。
それでも恋に落ちた。
胸がドキドキした。姿を見るだけで嬉しかった。初めて知る喜びだった。
これが恋だ。
何て幸せなんだろう。

臨也は幸せだった。
でもこれまで恋なんて自分とは関係のないものだと思っていた臨也は、恋の仕方なんて全く分からなかった。
だから静雄に相談したのかもしれない。
誰かに話をしたかった。
自分の内に秘めておくには、あまりに気持ちが大き過ぎたのかもしれない。

でも今思えば、それが静雄である必要なんて全くなかったのだ。
波江でも良かった。新羅でも良かった。門田でも良かった。誰だって良かった。
なのに臨也は静雄を選んだ。
他でもない天敵であるはずの静雄を、自分の意思で選んだ。

だってトムと親しかったから。
だっていつもトムと一緒にいたから。
思ったより優しかったから。
思ったよりずっと真剣に、臨也の話を聞いてくれたから。

思い返せば静雄のことばかりだ。
トムのことが好きだと言っておきながら、臨也はいつだって静雄のことばかり考えていた気がする。

「嫌われてるって、知ってるんだけどね」

ずっとグズグズ考え続けてこんな時間になってしまった。
秘書はとうの昔に帰っていて、臨也ももうベッドの中に入っている。

悩みに悩んで、こんな真夜中になってようやく踏ん切りがついた。
携帯を開いて、アドレス帳から静雄を呼び出す。
初めてトムのことが好きなのだと告白したあの公園で、静雄から直接教えてもらったアドレスだ。
乱暴な字の書かれたよれよれの煙草の箱を、臨也はまだ捨てきれずに持っている。
捨てるには勿体ないと思った。
捨てられなかった。

「俺の恋はもう終わりだ」

トムと二人で会ったこと。そこで告白したこと。そしてフラれたことを、臨也は携帯のメール画面に打っていった。
だからもう静雄に会う必要がなくったことも、話す必要がなくなったことも、なんとか文字にしていく。

また振出しに戻っただけだ。
臨也と静雄はそもそも仲良くなんてなかった。
静雄は臨也のことが嫌いだったし、臨也だって静雄が嫌いだった。
今までみたいに静雄が臨也に優しかったことの方が異常だったのだ。
また元のように戻るだけ。

少しだけ悩んで、臨也はメールの最後に「今までありがとう」と付け加えておいた。
静雄がどういうつもりだったのかは知らないが、親切にしてくれたことが臨也には確かに嬉しかった。
救われていた。幸せだった。満ち足りていた。
どうしようもないくらい嫌われているからこそ、余計に嬉しく感じたのかもしれない。
メールはもう送ってしまった。
これでお終いだ。
臨也の恋はこれで終わった。
明日からまた、元通りの生活に戻る。

『なんで』

予定外の返信がすぐに来て、臨也は少しだけ驚いた。
静雄の返事が早いのも飾り気がないのもいつも通りだけども、そもそも返事があるとは思わなかった。
少し考えてから、臨也もまた返信する。

『何が?』
『もう会う必要はないって、なんで』
『だから俺、フラれたんだって。だからもういいんだ』
『もう好きじゃないのか』

ああもう本当に、何てことを聞いてくるんだろう。

そういうことじゃないんだって、だからもういいんだって、ちゃんとした言葉にもできないこんな今の気持ちを、臨也はどう説明していいのか分からない。
だって恥ずかしい。
だって情けない。
だって悔しい。
後悔なんて絶対にしないと思っていたのに、静雄に相談なんてしていなければ、今のこの状況も少しはマシになっていたかもしれない。そういう風に考えている自分がいる。

返事はしないことにした。
もういい。元の生活に戻るだけだから。
静雄だっていつまでも臨也にかまっているほどお人好しじゃないし、暇でもないだろう。

携帯が鳴った。静雄からの電話だ。
でももう出ない。


だって初めての恋だったから、どうすればいいのかなんて分からなかった。



あきゅろす。
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