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12

え、とトムは絞り出すような声で言って目を丸くしている。
その顔はやっぱり驚いたままで、臨也はそんな顔をトムにさせられたことがほんの少しだけ嬉しかった。

「え? いやいやいや、ちょっと待ってくれ。え? ちょっとタンマタンマ! 落ち着けって!」
「俺は落ち着いてますよ」
「いやいやいや!」

混乱している。
そりゃあそうだった。
誰だって会ったばかりの、それも同性の男からいきなり好きだと言われればそういう反応になるだろう。

臨也だって、すんなり受け入れてくれると思って言ったわけではない。
ただ、今言わなければいけないような気がした。
告白するつもりなんてなかった。それは本当だ。でも今言わないと後悔すると思った。

「あの、一応確認すっけど、好きってつまり……そっちの意味で?」
「はい」

すんなりとはっきりと頷けた。
トムはまだ動揺したように視線を彷徨わせている。
その目の中に、臨也は焦りを見てとった。
だが何を怖がる必要もない。だって臨也が望んでいるのはたった一つだ。

「俺は貴方が好きです」

振られたかった。

トムは優しい人だった。静雄が慕うに値する人だった。
それが分かっただけで、それだけでもう十分だと思った。

優しいトムなら、もしかすると悩んでくれるかもしれない。でももういい。
もういいから、早く終わらせたかった。何故かは分からない。
あんなに愛しいと思えた恋だったのに、ここで終わらせなければ取り返しのつかないことになる気がした。
トムは言葉を探しながら口を開く。

「……俺は、昨日と今日とで……ちょっとはアンタのことを、分かった気でいる」
「はい」

まだ動揺の抜けないまま、それでもトムははっきり言った。

「だからいえることだが、折原さん……アンタは多分、俺のことを、好きじゃねえよ」
「どうしてですか。俺が男だからですか」
「違う、違う、そうじゃなくて……なんつったらいいんかなコレ……」
「誤魔化さなくていいです、ハッキリ言ってくれたほうがいい」
「待て待て、だから違うんだって」

トムは困ったように何度も口を開閉して、それから深く息を吐いた。
怒らないでくれよ、と前置きする。

「俺のことを好いてくれるってのは、嬉しい。ありがとうな。でも、それはアンタが言うような好きじゃない」
「どうしてそんなことが分かるんですか」
「例えばさ、俺とキスしたいとかって思うか?」
「……それは判断基準にはならない」
「ちょっと悩んだな」

ハハ、とトムは笑う。
それが嫌味にならない人だ。
臨也が言葉に詰まると、更に続けた。

「なあ、アンタは多分、大事なことを一つだけ勘違いしてる」
「……何ですか」
「それは俺には言えねえなあ」

勘違いするような要素はどこにもない。
不服が顔に出たのか、トムは臨也の頭に手を置くと慣れた手つきでクシャクシャと臨也の頭をかきまぜた。
それがなんだか懐かしい気がして、思わず臨也は顔を上げる。

そうだ確か、前にも静雄にこうされたことがあった。

静雄にトムのことを相談して、思ったよりも静雄が優しくて、そのことを新羅に話したらちょっとした口論になった。
新羅と言い争ったあとに偶然街で会って、自分は悪くないと静雄にその憤りをぶつけた。
その時に静雄は臨也の頭に手を置いて、静雄は臨也は悪くないと言ってくれたのだ。
あの時のことを臨也は今も覚えている。
忘れたくても忘れられない。だってあんなに心地よくて、そしてどうしようもなく胸が高鳴った。

「なあ、今日のところはとりあえず帰ろう。アンタも俺も混乱してる」

今だってトムは優しい顔で笑っている。それはきっと静雄よりも優しい顔だった。
だけどどうしてだろう。

ちっとも、臨也の脈は波打たなかった。



あきゅろす。
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