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まるで奇跡のような光景だろう。
今の自分達の様子を客観的に想像して、臨也はそう思った。

なんてことのないただの公園。
昼前で気温はそれなりに温かく日差しもさして、まあまあいい天気といえる穏やかな日だ。
臨也は公園のベンチに座っていた。そしてその隣にもまた人が座っていた。

平和島静雄である。

「……んで? 話ってなんだよ」

イライラとした様子で煙草を吸いながら、煩わしそうに静雄が聞いた。
話があるんだ、と持ちかけてすぐに信じて貰えるはずもなく、この状況にこぎつけるまでに一時間は掛けた。
それほどまでに、今の臨也にはのっぴきならない事情がある。

「うん、あのさ……」
「…………」
「……あの、だからさ……」
「早く言え。俺は帰りたいんだ」
「あ、ごめん……あの、実はさ、俺……好きみたいなんだよね……」
「――は?」

静雄が口をポカンと開けて、煙草がぽろりと地面に落ちた。
ああ、恥ずかしい。
自分の顔が熱くなるのを自覚しながら、臨也は両手で顔を覆って俯いた。
言った。言ってしまった。
もう随分と昔から、悶々と一人で悩んできたことだ。誰かに打ち明けるつもりはなかったし、ともすれば自分の勘違いだろうと思うこともあった。

だが、どうにもそうではないらしい。
臨也は泣きそうになるのを堪えながら、なんとか口を開く。

「好き、なんだと思う……多分、好きだ」
「おま、お前……いったい、何言って……」
「トムさんの、ことが」
「――トムさ、はあ?」

静雄が一際大きく声をあげて、臨也はぎゅうっと目をつぶる。
恥ずかしい、本当に。いっそこのまま、消えてなくなってしまいたいくらいだ。

「お前、トムさんって、お前」
「なんか、気付いたら、さ……目で追ってるっていうか、いや、ほとんど見かけることなんてないんだけど、でも、なんか……」
「……一応聞くが、俺の上司のトムさんのことか?」
「うん……」

お互いに沈黙する。
顔を見られたくなくて、臨也は俯いたままフードを被って、少しだけ静雄から顔を逸らした。
顔を直視できる自信がない。
今そばにいるだけでも、心臓がドキドキいっている。

「お前さ……見かけるって、仕事中の……」
「ああ、うん……池袋に来て、たまにさ、君、俺に気付かないことあるんだよ、それで……遠くから、見てるだけだけど、なんか、ドキドキするっていうか……」
「……お前、それって、ヴァローナじゃなくてか?」
「え?」
「いや、だってよぉ……普通に考えて、トムさんは男だし。ヴァローナは、まあ、可愛いしよ……」
「……可愛い?」

思わず訊き返すと、いや、かわいいだろ、と訝しそうに静雄が言って、ああうん、そうだね、と臨也も慌てて頷く。

「いや、でも、あのロシア人が来る前からだし、ドキドキするの」
「……そうか」

さっきから心臓の音がうるさくて、それが静雄にも聞こえるんじゃないかと気が気でない。
それきり黙ってしまった臨也に、静雄も暫く考えるような仕草をして、それから、また新しい煙草を出して咥えた。

「そんで、お前は、俺にどうして欲しいわけ?」
「えっ、あ……いや、だから……たまにでも、相談に、乗ってくれたら」
「……相談? それだけでいいのか?」
「い、いいから、それだけで……本当に、たまにで、いいし……だから、あの」
「ふうん。分かった」

ズボンのポケットに手を突っ込んだかと思うとボールペンを取り出して、それから少しキョロキョロして今度は胸ポケットから煙草の箱を取り出して、何かを書きつけ始める。
ぼうっとしながらその動きを見ていると、書き終えたらしいその箱を臨也に押し付けた。

「えっ、なに、なに」
「俺のアドレス、書いといたから」
「――え?」
「なんかあったら連絡しろ」

それともいらねえか、と手を引っ込めかけて、臨也は急いでその箱を奪い取った。

「いる、いるからっ!」
「……そうかよ」

ふうぅ、と煙を吐き出す静雄を尻目に、臨也は乱暴な字の書かれた箱を大事に抱えた。



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