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トムのアドレスを教えてもらったって、白状すれば何をどうすればいいのかなんててんで思いつかない。
静雄は告白しないのかなんて言ってくれるが、臨也からすればとんでもなかった。
何度でも言うが、そんなことをするつもりは全くない。
今日までもこれからも、臨也は告白だなんてことをトムにしたいとはきっと思わない。

そもそも、今日みたいに近くで話しをしたいと思うことだって今までなかった。
だって遠くから見てるだけで良かった。
たまに静雄から話を聞ければ、たまに静雄が臨也の話を聞いてくれれば、それだけで十分だった。

「なんか俺、シズちゃん大好き人間みたいだな……」

アドレス帳に新しく登録された「田中トム」の文字を眺めながら呟くと、まるでそれを見計らったかのように携帯が鳴った。
思わず周囲を確認してしまったが、一人きりの臨也の自宅には秘書さえいない。

「メ、メールか……」

改めて着信音を聞いて電話とメールを区別する。
慌てる必要なんてどこにもないのに、臨也は一体何を勝手に動揺しているのだろう。

届いた新着メールを確認してみるとそれはアドレスを交換したばかりのトムからで、なぜだか勝手に静雄からだと思っていた臨也は拍子抜けしてしまった。
普通に考えて静雄よりトムからメールを貰った方が嬉しいはずなのに、と冷静に自分を分析する。

メールの内容はシンプルだった。

『話したいことって?』

ああそういえば、静雄のそういうデマカセでこのアドレスを教えてもらったんだった。
あの時は本当に驚いた。
あれだけトムと直接関わり合うつもりはないと言ったのに、そしてそれを静雄も理解した風だったのに、まさかいきなりそんな話をされるとは思わなかった。

『いや、なんてゆーか、俺も何て言っていいのか分からないんですけど』

まだ動揺の残る頭で必死に文章を打っていく。
相手の顔が見えない分、そしてすぐに言葉を返す必要がない分、少しはまともな返事ができるはずだ。

だがトムは、そんな臨也の自信をあっさり打ち砕くようなことを言った。

『静雄だろ?』
『はい?』
『だから、話って静雄のことなんだろ? 違うのか?』

全く似た者同士の二人なんだなあ、と変なところで臨也は感心してしまった。

どうしてこんなにお節介なのだろう。
どうしてこんなに優しくしようとするのだろう。
そしてこんなことを言うのは傲慢かもしれないが、それが臨也を不思議ともどかしい気持ちにさせる。
話があるなんて嘘だ。
でも少なくとも、仮にそれが本当だったとしても、それが静雄の話である筈がない。

どうして分かってもらえないんだろう、とまるで少女漫画のヒロインみたいなことをただ純粋に疑問に思った。
臨也はただ恋をしているだけだ。
別に叶わなくたっていいから、ただ話を聞いてくれる存在が欲しい。
たったそれだけのことなのに、どうしてこんなに話が広がっていくのか分からない。ただただ疑問だった。

どうして誰からも分かってもらえないんだろう?

『どうしてシズちゃんなんですか?』
『だってよ、俺とアンタの接点ってそんくらいだろ』

だからどうしてそう思うんですかと返信しかけて、臨也は途中でメールを打つ手を止めた。

折角トムからメールをくれたのに、こんな喧嘩腰にも見える文章を送っていいはずがない。
何か勘違いしてそう言ってくれているなら、臨也はむしろその勘違いを利用するべきだ。
いつもだったらそのくらいすぐ考え付くのに、どうやら今の臨也は頭の回転が鈍っているらしい。
トムとメールしているからだろうか。

ずっと好きだった。ずっと遠くから見ていた。
見ているだけでいいと思えるような恋だった。
新羅は臨也を滅茶苦茶だと罵ったが、どんなにでたらめでも臨也には大切な恋だった。

『……バレちゃうもんなんですね』
『情報屋のアンタが俺に話ってことはよっぽどだろ。こんな俺でも、ちょっとは力になれるかもしれないぜ?』
『優しいんですね、トムさん』

だってあの静雄の上司なんだから、そして静雄が信頼する上司なんだから、そんなの当たり前だ。

『もう一回直接会わねえ?』
『え?』
『来週の日曜の1時からさ、アンタ暇?』
『……時間を作れないことは、ないですけど』
『じゃあもう一回、ちゃんと顔を合わせて話そうや』

何を言っているんだろう、と嫌味でもなくそう思った。
この人は、今誰をメールをしているのか分かっているのだろうか。

『俺はあの折原臨也ですよ? 貴方を利用して、何か悪企みをしようとしてるかもしれないですよ?』
『大丈夫だ。んで、池袋の西口でいいか? 俺がそっちに行ったほうがいいか』

その返事の仕方がどこか静雄に似ていて、ああそうか多分無駄なんだ、とだからすぐに臨也は悟った。

この人は何故だか今日会ったばかりの臨也のことを信じていて、自分がただ純粋に話し相手として求められていると信じて疑っていない。
それじゃあ臨也が何を言ったって無駄だ。

『いえ、俺が池袋に行きます』

それが自分の考えと矛盾した行動であることに気付けない程度には、臨也はまだ動揺していた。



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