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あの日も、ちょうど今のような状況だった。

静雄は酒に酔った臨也に覆い被さって、けれど臨也のほうはそれをじゃれ合いの延長程度にしか思っていなかった。
歯痒かった。実に歯痒い状況だった。
静雄としてはもう、いっそこのままコトに及びたいくらいの気持ちだったのだ。

だが静雄にも理性はある。強姦まがいな真似をして泣かれるなんて絶対に嫌だったし、それが原因で仲がこじれたりしたら一大事だ。

そういう意味においては、確かに静雄は臨也に甘えている。
例えばつまらない喧嘩をしたとして、折れてくれるのはいつも臨也だった。静雄はただ、拗ねた顔をしてさえいれば全て許されたのだ。

だがこの問題はそうもいかない。
強姦したうえ相手に折れてもらうなんて訳が分からない。
だから静雄は、なんとしても臨也の同意が欲しかった。

「臨也」
「んー? なあにぃ?」
「……セックスしたい」
「えー?」

都合がいいことが、一つだけあった。
ある程度酔うと、臨也はその間の記憶を翌日に持ち越していないと言うことだ。
だから静雄も、安心してこんな恥ずかしい台詞を試みてみることができたのだ。
しかしここまでしても、臨也の反応は鈍い。

「シズちゃん、えっちしたいの?」
「……したい」
「えぇー」
「……嫌なのか?」
「んー、嫌っていうかぁ」

ふにゃふにゃと酒に呑まれたまま、この時の臨也はさも当たり前のようにこう言ったのだ。

「おれのシズちゃんには、そんなことしてほしくないかなあ」


――つまりは、そういうことだ。





そして今はどうだろう。脇腹を撫でる手を更に腰まで下ろしてみても、臨也はただクスクス笑うだけである。
これはもう確定だ。火を見るより明らかだ。
臨也はどうしても、静雄とセックスをする気はないのだ。
したくないだとかそういった理由ではなく、そもそもそういう発想すらないのだ。

――興味がないだって?
冗談じゃない。

繰り返すようだが、静雄だって男だ。立派な男なのである。
好きな人とそういうことをしたいと思うのは当然で自然なことだし、むしろ健全だ。
だがしかし、嫌がる人間を無理やり組み伏せるようなマネもまた、静雄はしたくないのである。

「臨也」
「んー?」
「……セックスしたい」

きょとん、とする臨也にもう一度、静雄はゆっくり確実に繰り返した。

「セックスしたい」
「……んー?」

しかしそれでもまだ、臨也の顔は要領を得ない。
「ところで、そのセックスってどのセックス?」とでも言い出しそうな雰囲気だ。
そんなの勿論ひとつに決まっている。

「臨也。俺は、お前と、セックスが、したい」
「……シズちゃん?」

臨也が静雄に対して何か勘違いをしているのなら、その誤解を解けば分かってくれるのではないか。
静雄はそう期待していたのだが、ここまでハッキリと言ってもまだ、臨也はただ不思議そうな顔をするだけだ。

酒のせいもあるかもしれない。
でも、それだけではない、と静雄は思う。

いくら待っても反応が鈍い臨也にじれて、静雄は文字通り落とすようなキスをした。
すると臨也の表情がふにゃりと嬉しそうになったので、そのまま勢いで唇を舐めてみる。
いつもは臨也から仕掛けてくるのだが、静雄はそれがもどかしくて仕方なかった。

唇を割って、そっと歯列をなぞる。
いわゆるディープキスというものさえしたことがなかったので、静雄も慎重だ。
あまり調子に乗って嫌がられてはかなわないので、名残惜しいがすぐに唇を離す。

「……ふふっ」

そして顔をあげると上機嫌そうに臨也が笑ったので、とりあえずはほっとした。
と同時に、たったこれだけのことにここまで慎重にならなければならないことが、少しだけ虚しいのだが。












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夢見がちな君に恋


あきゅろす。
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