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どうしようかと考えて、静雄はとりあえずキスを仕掛けた。触れるだけのキスである。
すると臨也は破顔して、はいそれじゃあおれからもーと、いたく無邪気に唇をあわせてくる。

はっきり言おう、分かってない。
臨也はてんで、この状況を分かっていない。

付き合いはじめてからもう数年が経つというのに、静雄は臨也とセックスをしたことがなかった。
とはいえ一応、触るだけならたまにある。
静雄も臨也も男なので、お互いに抜きあったりだとか、まあそのくらいならしたことはあった。

その時の臨也の顔ときたらやけに色っぽいのだが、本人にその自覚はあるのだろうか。
お互いに息も上がって、服装は乱れて、それじゃあそのまま先に進むのかといえば、そんなことは全くない。
それで終わりだ。
静雄は臨也とセックスをしたことがない。

臨也がそう望んでいるように見えた。
直接聞いたことはなかったけれどなんとなく、セックスをしたがっていないと、臨也の態度はそういう風に見えた。
だから静雄だって、仕方がないなと諦めていたのだ。

愛はセックスとイコールでない。

嫌がることを強要したくはないし、そばにいるだけで嬉しいとはそういうことだ。
だから不満なんてなかった。
仕方がないなと思えたから、その状況にも甘んじていられたのだ。

ところが先日、その話をついポロッと友人の闇医者に漏らしてしまって、そして静雄は衝撃的な言葉を聞いた。
まるで頭を殴られたかのような感じがした。

『ああ、だって、臨也は静雄がそういうことには興味はないと思ってるからね』


――なんだと?


それからがまた、悶々とした日々だ。

興味がない?
どういうことだ。
静雄はてっきり、臨也は男だから、同じ男である自分とはセックスをしたがっていないのだと、そういう風に思っていたのだ。

それなら分からないでもなかった。
静雄も臨也もゲイではない。
男同士でどうするのかなんて、昔トムがふざけて見せてきたAVがなければ静雄も知らなかっただろうし、そもそも気持ちがいいものなのかもよく分からない。

それでも勿論、やれるものならやりたいというのが本音だ。
静雄だって男だ。
人並みに性欲はあるし、好きな人とはそうなりたいと思うのは自然な欲求だ。
けれども、臨也が嫌がっていると思ったから。だからこれまで、生殺しのような状況でも我慢してきたのだ。
どうにかこうにか欲求を押さえ込んできたのだ。


それが、「静雄はそういうことに興味はないと思ってるから」、だって?

「……臨也」
「なあに? 甘えん坊のシズちゃん」

へら、と笑いながら、よしよしとまた頭を撫でる。
――ああやっぱり。
静雄は落胆した。
恋人から押し倒されて、キスされて、体に触れられて、熱っぽく名前を呼ばれて、それでもまだ、臨也は“そういう気分”にはならないらしい。

実ははじめ新羅からその話を聞いたとき、内心では驚きながらも、「さすがにそれはないだろう」と静雄は鼻で笑ったのだ。

だってそんなのあり得ない。
静雄は男で、成人して久しい。それなのにセックスに興味がないだなんて、同じ男の臨也がそんな勘違いをするはずがない。
いくらなんでもあり得ない。
そう思っていたし、そう思いたかったのかもしれない。

だってそれじゃあ、今までの我慢はなんだったのだ。

だけれども、最近になって、その話もあながち間違いではないという気がしていた。
というのも、実は少し前に、それを裏付けるような出来事が起こっていたからである。














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夢見がちな君に恋


あきゅろす。
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