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かわいいなあといつも思っていて、愛しいなあともいつも考えていた。
白い肌に鎖骨が浮かび上がっているのは色っぽいと思いうし、拗ねたら慰めてくれようとするのがいじらしいと思うし、たまに見せる抜けるような笑みは愛しいと思う。
静雄は臨也が好きだった。そして臨也もまた静雄が好きだった。いわゆる相思相愛で、二人は恋人同士だった。
何がきっかけで付き合い始めたかなんてのは覚えていない。気付いたら、いつのまにか。それが正直で多分正確なところだったし、好きになった理由もまたしかりだ。
二人の付き合いはおおむね順調だった。
つまらない諍いなら何度もするが、それも付き合っていく上では必要なことだと思うし、それで別れ話になんて発展したこともない。
付き合う前には考えられなかったことだが、恋人としての臨也がとても純粋で素直だったからだ。
自分も恋愛に関しては奥手である自覚はあるが、臨也はそれよりももっとなのではないかと思う。
はじめのほうはそれに驚いていたが、勿論だからといって嫌いになるということもない。
むしろかわいいと思うし、こういうのをギャップ萌えというのだろうかと上司から教えて貰った言葉を思い出したりもした。
だから、不満はなかった。不満らしい不満なんて、これまでは本気でなかったのだ。
そう、この間、新羅から衝撃的な言葉を聞かされるまでは。あの言葉を聞くまでは。
それからというもの、静雄にはどうしても解せない問題が発生してしまったのだ。
「……臨也」
「んー?」
「臨也」
「どうしたの? シズちゃん」
テレビを見ていた。
仕事を終えて臨也のマンションに行って、そうして二人で夕飯を食べて、のんびりとした時間を過ごす。
これだけで幸せといえば幸せだ。
近くにいられるだけで嬉しい、だなんて、そんな歯の浮くようなセリフはとても言えないが、それでも静雄がそう感じているのは間違いなかった。
臨也は桃のチューハイを飲んでいる。
そうして酔っている。
もしかすると、これはチャンスなのではないか? と静雄は思った。
ちょっとばっかし、確かめておきたいことがあったのだ。
「面白くないつまんない」とぼやきながらも、テレビから目を離さない臨也の後ろにまわって、その体を抱きしめてみる。
「ん? シズちゃん、どうしたの?」
「…………」
「なあに? かまって欲しいの?」
笑っているのか、臨也の体が揺れる。うなじに顔を埋めてみると声が漏れた。
良いにおいがする。
声には出さないが、そう思う。
「シズちゃーん?」
言葉は返さずに、ただその体を抱く腕に力を込める。
簡単に折れてしまいそうだから、慎重に。
「どうしたの? 今日は甘えん坊さんだねえ」
よしよし、甘やかしてあげよう。
臨也は無理やり体を捻って静雄と向き合うようになると、両手でワシャワシャと静雄の頭を撫でた。
ああ、問題だ。
こういう時に強く思う。
これは本当に、問題だ。
「え、……わっ!」
たまらなくなって、そのまま臨也の体を押し倒した。
白い首筋に顔を埋めると、くすぐったいのかクスクス笑う。
「ふふっ、どうしたの?」
「……臨也」
「なに? おれがテレビばっか見てたから、拗ねちゃった?」
ごめんね、と言いながら、また無邪気に頭を撫でる。これだから問題だ。
静雄は試しに臨也の服の下に手を入れて、脇腹の辺りに直に触れた。
ビクッ、と少しだけ体が跳ねて、するとまた臨也はクスクス笑う。
「なーに? くすぐったいよ」
――ああ、だから。
そうじゃ、ないのに。
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