[携帯モード] [URL送信]

※何と言っていいものかよく分からないパラレル




初めて臨也に静雄を会わせた時、新羅の想像通り臨也はまず怯えたように瞳を揺らした。特別なことではなかった。臨也はいつもそんな風だったから、会わせたのが静雄でなかったとしても同じような態度をとっただろう。だが静雄がそんな臨也のことを初対面で理解している筈もない。これからは二人とも同じ部屋で暮らすことになるから仲良くしてね、という新羅の言葉が実現する筈もなかった。二人はまるで余所余所しかった。言葉を交わすことさえしなかった。そんな日が一週間は続いた。
そしてそのまま一週間と一日が経った頃、とうとうセルティが痺れを切らしてこう言った。「あの二人、どうにかならないのか?」新羅はそうだねえと曖昧に頷いただけだった。セルティは憮然とした顔をする。だがそれ以上は何も言わなかった。新羅の診療所に来る患者はまだたくさんいる。

町外れの田舎の田舎で、新羅は精神科の小さな診療所をやっていた。とはいえ辺りには他に病院らしい病院もないので、外科から内科、果てには耳鼻科や産婦人科まで、新羅の診療所にはありとあらゆる分野の患者が来る。休む間もないとまではいかなくとも、そこそこ忙しいと言える日々だった。そんな中、新羅は臨也と静雄という変わり者を同居という形で引き取った。臨也を今から一ヶ月前、静雄を一週間と一日前にだ。
それを決めたのは新羅の独断だったが、看護師として新羅の手助けをしてくれているセルティは反対しなかった。自宅も兼ねている診療所には二人で暮らしていたが、それからは四人だ。賑やかになっていいじゃないか、と笑う。恋人としての贔屓目を抜きにしても美しい笑顔だった。

だが現実は賑やかから程遠い。新羅の診療所に来て同居するようになっても、臨也はほとんど口をきかなかった。理由は簡単だ。臨也の目には、新羅とセルティが宇宙人に映っているのだ。まともに会話を交わせるようになるのに二週間を費やした。与えた食事を大人しく口に入れるようになったのもこの頃だ。臨也は常に他人を警戒し続けている。自分以外の人間は全て宇宙人だと信じ込んでいる。
これにはセルティも参ってしまったようだった。臨也だけでも手がかかるのに、次は静雄だ。静雄もまた一筋縄ではいかない男だった。常に絶望していた。明日には世界が滅ぶと毎日思い込み続けていた。

「新羅、あの二人にカウンセリングをしたりしないのか?」
「やって意味があるならね」

二人の食事を運んだ帰り、痺れを切らしたようにセルティが言った。「だって少しもよくならないじゃないか」焦れたような声を愛しいと思う。新羅は簡単に説明した。

「カウンセリングなんてほとんど意味がないよ」
「なんでそんなことが分かるんだ。やってみないと分からないだろ」
「分かるんだなあそれが」

新羅はセルティが不満げに反論しようとするのを軽く制した。大丈夫だよ、と気休めのようなことを言う。それで押し黙ってくれた彼女を新羅は愛しく思った。それは信頼の行為に思えたからだ。





臨也と静雄は一つの部屋で暮らしている。新羅の診療所には患者という形で入っているが、新羅は二週間が経ってもまだ治療らしい治療をしなかった。
二人は相変わらず会話をしない。静雄はベッドの上で毎日“まるで世界が終わるような”顔をし続けているし、臨也はただソファの上でうずくまり続けている。まるでおかしな二人組だ。やあ、と新羅が明るく声をかけてみてもほとんど無駄だった。チラリと視線は寄越してくれるが、それで終わりだ。とても同じように「やあ」と言い返してくれそうな雰囲気ではない。これでは他の病院も持て余す筈だった。二人には頼れる身寄りはいない。数少ない二人の共通点だ。

「ねえ新羅、俺、あの人と同じ部屋って嫌なんだけど」

臨也を招き入れて二ヶ月が経った。この頃の臨也は少しは会話が成立するようになっていた。自分から口を開くこともある。静雄はといえば相変わらずの一言だったが、一歩前進と言えなくもない。
臨也はふらふらと部屋を抜け出して、新羅を見つけると言った。静雄と同じ部屋なのが不服らしい。臨也からすれば何を考えているのか分からない宇宙人と同室なのだ。気が気でないといった感じなのだろう。

「気持ちはわかるけど、臨也、我慢して」
「……」
「静雄は何もしやしないよ」

臨也は押し黙ったまま何も言わない。これはセルティの時とは全く違う、ただ返す言葉がないだけだろう。そのうち仲良くなれるよ、と新羅は付け加えておいた。その程度の気休めが臨也に通用しないのも、想定の範囲だ。













--------------------
わたしのかみさま


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!