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馬鹿!
俺の馬鹿!

己の過失を激しく悔いながら、静雄の下で暴れ出した臨也をなんとか宥めようと苦心する。
暴れる臨也を力で捻じ伏せるのは容易いが、問題はこれからどうやって冷静になってもらうかだ。

謝るのか。謝ればいいのだろうか。
童貞じゃなくてすいませんでした、と謝ればいいのか。それって少し、いやかなり意味が分からないのだがそれでいいのか。
頭の中が軽く混乱状態だが、ここで静雄までパニックになってはいよいよ収拾がつかなくなる。

「臨也落ち着け! あのなっ」
「おれのシズちゃんがー!」
「ああだからっ……クソ!」

少し迷ったが、背に腹は代えられなかったので今度は口を塞いでやった。手の平で押さえ込むだなんて雰囲気のない手段ではない、口で塞いだ。

「んー!」

今日はこれで何度目だろう。
黙らせようと思っただけだが、これまで我慢してきただけについつい夢中になってしまう。

歯列をなぞって、舌を吸って、酸素がなくなってきたらほんの少し解放して、また貪るように深く口付ける。
臨也は抵抗らしい抵抗をしない。
しないのかできないのか、そこまではさすがに分からなかったが、静雄は勝手に前者だと判断した。
臨也の右手が、静雄の服をぎゅうと掴んできたからだ。

――あ、なんかもう、これってこのままイケるんじゃないか。

理屈をあれこれ捏ねくり回すのは嫌いだし、そもそもできそうもない。このまま流れで、なんとなく押せばイケそうな気がする。
そもそも始めはそのつもりだったのだ。臨也も嫌ではないと言うし、今も嫌がっている風でもないし、このまま押してみるのも手かもしれない。

そろり、と右手を臨也の下肢へのばす。
一度寛げてそのままなので、容易く肌に触れることができた。

ピクリ、と臨也が反応する。
口を離して、わざと手を止める。
至近距離で、目が合った。

「……臨也、いいな」
「……ねえ、シズちゃん。シズちゃんはいやじゃないの、ねえ、いやじゃないの」
「何が?」
「おれだけのシズちゃんでいてよ」
「……何言ってんだ、お前」

なんの殺し文句だ、それは。

「俺はお前がいいよ」
「おれは男だよ。……男じゃなくても、あの折原臨也だよ」
「そうだな。俺は男でも女でも、折原臨也を抱きたいんだけどな」
「ねえシズちゃん、セックスなんてしなくても、おれたちは恋人でしょ?」
「そうだな。セックスなんてしなくても、俺はお前が好きだからな」

臨也が何を今更言っているのか、全く分からない。
セックスしなくても恋人か、だって?
そんなの当たり前に決まっている。現にこれまでそうしてきたのだ。
今まで培ってきたものが、どうして今になって崩れようというのだろう。

何を怖がってる?
これまでもこれからも、静雄の気持ちが変わることはあり得ない。

「好きだよ臨也」
「……うん」
「だから、お前が本気で嫌なら、俺はやめるよ」
「……いやじゃない。何度も言ってる……」
「そうだったな」

なるべく柔らかい声で言ってやる。何も怖がる必要がないように。

「じゃあ、いいな?」
「…………」
「臨也?」
「……いやじゃない」

口を尖らせて素っ気なく言う。最後の最後まで続く強情に、思わず笑ってしまった。










――それで、つい、舞い上がってしまったというのも、ひとつは静雄のせいでもあるのだが。

「なに、なに、なんで……」

すっかり忘れていた。臨也は酔った時の記憶を、翌日に持ち越さないということを。
そのおかげで今、臨也がひどくパニック状態にいるというのも、昨夜の後始末やフォローが悪かった静雄のせいだといえば、静雄のせいだ。

――あー、やっちまったなあ…。

寝起きのぼんやりとした頭で考える。
正確な時刻までは分からないが、カーテンから差し込む光から今が夜でないということだけは分かる。

「なんで、こんな」

見ていてかわいそうなくらい、臨也は「ベッドの上で二人とも裸で寝ている」という状況に狼狽していた。
覚えていないのなら無理もない。だがこの状況は、たとえ記憶になくてもすぐに一つの推理に行きつくだろう。
ベッドの上から慌てて飛び退いて、らしくないほどに混乱している臨也を観察する。

しかしまあ、やってしまったものは仕方がない。
いつものように許してもらおう。だいじょうぶ、なにがあっても自分たちは恋人どうしだからだいじょうぶ。

ぼんやりそう判断して、戸惑う臨也の腕を掴んで無理やりこちらに引き寄せた。
小さい悲鳴が上がったが、大丈夫、大丈夫。

悪いようにはしないから。













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夢見がちな君に恋
(羊なんかじゃない、男は狼なのよ!)


あきゅろす。
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