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さて、大事なのはむしろここからだ。

近くにあったティッシュの箱を引き寄せて、汚れた手を乱暴に拭う。
今は臨也は自分の呼吸を落ち着けるのに精一杯だが、このままいけば「はいじゃあ次はシズちゃんね」となるだろう。そうはさせるか。

いや違うそれは嬉しい、嬉しいのだ。嬉しいのだが、今日の目的はそういうことじゃない。そこからまた更に前進したい。
そのためには、臨也のペースに持っていかれるわけにはいかないのだ。

しかも良く考えてみると、わりと強引に事を進めてしまったので臨也がヘソを曲げてしまっている可能性も無きにしもあらずだ。
そうなると事態はますますややこしい。そういう時の臨也のしつこさは筋金入りだ。

「……臨也?」
「うぅ、シズちゃんに襲われた……」
「…………」
「もうお婿に行けない……」
「…………」

これは、怒ってはいないと判断していいのだろうか。

よくは分からないが、「はいじゃあ次はシズちゃんね」となることも「シズちゃんの馬鹿ぁぁああ!」となることもなさそうなので、ひとまずは両手で顔を覆ってシクシクと泣き真似をする臨也の額に、慣れないご機嫌取りのつもりでキスをした。

「臨也」
「あ、あのシズちゃんが、女タラシのようなことを……さっきからシズちゃんが変だ……」
「……あのな、臨也。何度も言うけど」

両手を引っぺがして、正面から目を覗きこむ。
その双眸がまだ濡れているのは、さっきの行為の名残だろうか。どちらでもいい。今日こそはハッキリさせておきたい。

「俺は男だから、お前とセックスだってしたいんだよ」

臨也の目がパチクリと見開かれる。
あ、可愛い、と場違いなことをふと考えて、そのまま欲に任せて深く口付けた。

鼻から抜けるような息も、縋るような手も、全て愛しいと思う。だから体も欲しいと思う。
これはおかしい思考などでは断じてない。

「シ、シズちゃん、でもさ」
「……お前は嫌なのかよ」
「いや、とか、そういうのじゃ、なくて……あの、だってさ」
「だって?」

なるべく優しく促すと、困ったように眉を寄せる。

ああ可愛い、可愛い。すごく可愛い。
愛しい恋人なんだから当然だろう。心を満たすことは大事だが、体だって満たしたい。
静雄だって男だから、臨也と深く繋がっていたい。
ドロドロのグチャグチャに犯してやりたい。

そう思うことは不自然ではない筈だ。
静雄がセックスをしないだなんて、そんな勘違いをなぜ臨也がしているのかは知らないが、誤解なら解けばいい。

本気で嫌がるならやらない。
そのあたりの線引きはするつもりだ。
ただ、それが単なる勘違いなら我慢できない。

くどいようだが静雄は男だ。
健全に正常に性欲を持って生まれた正真正銘の男なのだ。

「だって、シズちゃんさ……あの」
「ん?」
「シズちゃん、シズちゃんが……おれの、シズちゃんが……」
「……臨也?」

なんだか、様子がおかしいような気がするのは気のせいだろうか。

嫌じゃない、と言う、それは嘘には見えない。
だったら何が問題だ。
静雄には全く分からない。ところが臨也は静雄の名前を連呼したのち、静雄の全く思いもよらないことを突然叫んだ。

「おれの……おれの、おれのシズちゃんがけがれるー!」
「…………」


――は?












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夢見がちな君に恋


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