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5

――それで、本当に、静雄君を伴って俺の外出許可がやっと出たわけだが。





ちょっと、俺には言いたいことがある。
久し振り、というかむしろ感覚としては初めてに近い日の下は、確かに俺に爽快感をもたらしてくれた。わざわざ休日に俺の都合のためやって来てくれた静雄君にも、俺は感謝すべきなんだと思う。
でもさ、それでもさ、ちょっと言いたいことがあるんだよ俺。

「……あのさあ、なんで皆俺たちのこと見てるわけ?」
「あ?」

今、俺と静雄君は二人で池袋の街を歩いている。本当に、ただ、歩いているだけだ。それなのになぜか、俺たちは街の人間たちの視線を惜しげもなくさらっている。
静雄君は涼しい顔で歩いているが、俺としてはこの状況が気になって仕方ない。なぜ皆こっちを見ているんだ。そして何故こっちを見ながら何かを囁き合っているんだ。

「あのさあ、静雄君って芸能人だったりする?」
「ちげーよ」
「じゃあ俺は?」
「ちげーよ」
「だよねえ……」

では、なぜこんなに視線を集めているんだ。
はっきり言って居た堪れない。なぜ、静雄君がこんなに涼しい顔をしていられるのか分からない。神経図太いのか?

「おい臨也ぁ」
「あ……何?」
「そんでお前、どこに行きたいんだ?」

静雄君ってマジでこの視線気にならないのか。平然と煙草を吸っている顔を見ながら、俺はなんとか言葉を探した。

「えーと、っても俺、どんなとこがあるのかさえ知らないしなあ」
「…………」
「あ、静雄君、前に俺がよく行ってた所とか知らないの?」
「知らねえよ」

清々しい即答っぷりだ。

静雄君は本当に不思議な男で、こうやって俺のことを気にかけてくれる癖に、俺に対して態度が冷たかった。なんていうか、まあ、言葉を選ばずに言っちゃうと、本当は俺のこと嫌いなんじゃないのか? っていう感じだ。

実際その可能性はある。というのも、俺と静雄君は性格が合いそうな感じではない。
うっかり俺に何かやっちゃって、そのせいで記憶を奪うだなんて言うシャレにならないことをやらかしてしまったものだから、仕方なく世話を焼いてやっている。大体、こんなところなのではないかと思う。
記憶を失くす前の俺が静雄君をどう思っていたのかは覚えていないが、今の俺は静雄君が嫌いではない。だってなんだかんだでお人好しだし。だから少し、この状況は残念だ。

こういうのことを俺が言うのも変な感じだが、折角記憶を失くして「俺」という人格がリセットされたんだから、ちょっとは以前の関係性も見直していいと思うんだよね。

「あ、そうだ、お腹空いたかも」
「……ああ、もうそんな時間か」

何故だか、そう言いながら静雄君は空を見上げた。つられて俺も上を見る。晴天だった。



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