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それからも平和島静雄は、時たま新羅の家に来るようになった。特に何も言わないが、多分俺に会いに来ているのだろうなということは分かる。
初めて会った時はなんだかよく分からないことを言われたが、やはり記憶喪失なんてものにさせてしまった俺のことが気になるのだろう。
俺が自分の部屋として新羅から貰った部屋に入って来ると、平和島静雄は何も言わずにこっちを見ていたりする。

「……ねえ、君、仕事は?」
「今は昼休みだ」

絶対にキレさせないでよ、静雄はキレると面倒なことになるから、と新羅には再三忠告されていた。大人しそうな男だし、なぜそんなことを言うのかはじめは分からなかったのだが、今は何となく分かる。
平和島静雄は、沸点が異様に低い。ちょっとした言葉に一々反応して、苛立つのだ。一応自分で抑えようとはしているようだが、イライラしてる様子は嫌でも分かる。

ただ、それを除けば悪い男ではなさそうなので、俺は今のところ平和島静雄が嫌いではない。

「ねえ、静雄さんって何の仕事してんの? 服に煙草の臭いついてるし、まさか本当にバーテンしてるんじゃないだろ?」
「……気持ち悪ぃ」
「え?」
「お前に静雄さんなんて呼ばれるのは気持ちが悪い」
「ああ、そっか、タメらしいしね」

俺と平和島静雄は高校の同窓生らしかった。新羅と三人で、同じ高校に通っていたのだという。
仲は良かったのかと聞くと、新羅は何とも言えない表情をした。「僕はそう思ってたよ」と言って、それから「その質問は静雄にしたら駄目だよ」と付け加えた。どういうことだ。

「じゃあ、何て呼べばいいかな。平和島って長くて呼びにくいんだよね。下の名前で呼んでいい?」
「……好きにしろ」
「じゃ、静雄君?」

俺が言った瞬間、平和島静雄はすごく嫌そうな顔をした。
ふんふん、なるほど、それでは君は「静雄君」で決定だ。


静雄君、静雄君、とふざけて呼んでいると、キレかけた彼はしかし「仕事だ」と言ってすぐに帰ってしまった。
つまらない。一度キレて面倒になった所を見てみたいのだが、それは今のところ叶っていない。堪え性があるのかないのか分からない男だ。

「ちょっと臨也」

入れ替わるように、今度は新羅が入って来た。忙しないな。

「君何したの? 静雄すごい怒って帰って行ったんだけど」
「別に。何もしてないよ」
「本当だろうね」

言いながら、新羅は何故だか部屋の中を見渡した。

「……まあ、暴れてはないみたいだけど」
「本当に何もしてないんだって。ただ、新しい呼称をつけただけだよ。静雄君、ってね」

呆れたように新羅が俺を見る。何だよ、別に変な呼び方じゃないだろ。さすがにいきなり呼び捨てはまずいかなと思って、とりあえず無難な君付けから入ったことの何が悪いんだ。

「まあ、好きにすればいいけど。本当に怒らせないでよ」
「……ねえ、新羅」
「何?」
「静雄君、俺に何したの?」

彼のせいで俺が記憶喪失になったのだという、その詳細はまだ聞かされていない。
俺の問いかけに、普段饒舌な新羅が口を閉ざした。少し何かを考えているような顔だった。

「さあ、それは、本人から聞きなよ」
「…………」

まあ、それは確かに、その通りだ。



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