[携帯モード] [URL送信]
大嫌い

別れよう、と別れ話を口にした折原臨也に対する平和島静雄の反応は、瞬きを一回という、至ってシンプルなものだった。





「大体さあ、シズちゃんって絶対に俺のこと好きじゃないよね。優しくないし、乱暴だし、セックスだって痛いし。そういえば好きだって言ってくれたことも一回もないじゃん。いっつも俺ばっかでさ、何それ、ああアホらしい。化物の君にそういう普通の恋愛を望んだ俺も馬鹿だったけど、もうそういうのも飽きちゃったんだよね。別れよう。俺ももう疲れちゃった。君の恋人でいたってメリットはゼロだよ。百害あって一利なし。そういうわけだから、分かってくれるよね?」

臨也は一気にそこまで捲し立てたが、それでも静雄は少しも表情を変えなかった。咥えていた煙草から口を離し、何か喋るのかと思えば、煙を吐き出しただけでまた咥える。臨也はその一連の動作にどうしようもない苛立ちを覚えた。やっぱりこの化物は、恋だの愛だのというものを全く理解せず、だからこそこんな状況でもそんなに呑気な様子でいられるのだ。

「ねえ、俺の話聞いてた? 別れようって言ってんの。ねえ、無視? まあいいけどさあ、ちょっとは何か言ってくれないかなあ」

矛盾したことを言いながら、臨也は相変わらず煙草を吸い続ける静雄を睨みつける。静雄は全く動揺していないようで、全くの冷静だった。それが更に臨也を苛立たせた。やっぱりこいつは分かっていない。どうせ初めから、臨也のことなんて何とも思っていなかったに違いないのだ。
臨也は再度、ねえ、と険のある声をかけた。これも黙殺されるようなら、静雄一人置いて帰ろうと思っていた。

「臨也君よぉ」
「あ、何、やっと何か言う気になったの。まあどっちにしろ俺の意見は変わらないけどね。それでも最後に何か言いたいことがあるなら、どうぞ?」
「そりゃあ、俺のことが嫌いになったってことか?」

この男は何を言っているのだろうと、臨也は静雄の顔をまじまじと見つめた。静雄は普段通りの顔で、煙草を咥えて、サングラスをかけて、弟から貰ったのだというバーテン服を身に纏っていた。どこからどうみても普段通りで、臨也の別れ話なんていかにもどうでもいいという風だった。

「そうだよ。っていうかはじめっから好きなんかじゃなかったのかも。まあどっちでもいいよね。俺は君のことが大っ嫌いだ」

静雄はやはり表情を一片も崩さなかった。ただサングラス越しに臨也を見下ろすだけだった。長く沈黙が続く。煙草が短くなっていき、そろそろ静雄の指を焦がそうかという段になって、やっと静雄はそれから口を離して臨也を呼んだ。その時には、臨也はもう相当に苛立ちがつのっていた。

「臨也」

何だよ、と臨也が声を荒立てる前に、静雄は流れるような自然な仕草で臨也に触れるだけのキスをした。驚く臨也を全く無視して、そしていかにも面倒臭そうに無表情で言った。

「俺は嘘吐きは嫌いだ」










--------------------
大嫌い(大嫌いだ)


あきゅろす。
無料HPエムペ!