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意味が分からない。結局のところ、新羅が静雄に何を求めているのかが全く分からない。だからと言って何もしないわけにはいかないだろう。そうでなくとも、恐らく臨也自身まだ気にしているであろうあの夜の行動のフォローをしなければならない。
新羅にアドバイスを求めたその次の日にさっそく、静雄は臨也の家に行く約束を取り付けた。よく分からないが、訳を知っているらしい新羅がああ言うのだから、静雄は臨也に「自分の愛を証明」しなければならないのだろう。不安を取り除けと言っていた。まさか今さらになって臨也が自分は静雄に好かれていないなどという勘違いをしているわけではないだろうが、それに似たような誤解をしている可能性はある。

愛を証明する。静雄は何度も自分に言い聞かせた。臨也に自分の愛を証明する。

会った臨也はいつも通りの顔をしていた。だが静雄があの夜の話をするとすぐに顔色を変えて、困ったように視線を彷徨わせた。あの臨也がここまで露骨な反応をするなんて、余程あの夜の行動は臨也にとってもイレギュラーだったのだろう。触れないようにすることもできた。だがそれでは駄目だ。別に無理しなくたっていい、臨也はそのままでいてくれればそれが一番良いから、もうあんな顔はしないで欲しい。それだけは分かって欲しかった。

「あのな臨也」
「……な、何?」
「俺、考えたんだけどよ」

臨也の瞳がせわしくなくグルグル動いている。名前を呼んだだけで細い肩がビクリと跳ねた。そんなに怯えなくていいのに、どうしてここまで自分を自分で追い詰めるのだろう。どうしてここまで追い詰めてしまうのだろう。

「俺はな、こうやって」
「……わっ」

臨也の腕を引っ張った。そうして壊してしまわない程度に抱き締める。

「こうやって、お前と一緒にいるだけで十分だからな」
「……う」
「本当にこれで良いんだ。勘違いさせたなら悪かった」
「……うん」
「お前だけが背負い込む必要なんて、全然ないからな」
「……うん、ごめん」

静雄の肩に額を擦り付けて、臨也は細い声で言った。

「ごめんね、シズちゃん」
「だから」
「うん、ちゃんと好きだよ。ありがとう」
「……お、俺も……俺も、好きだからな」

顔を上げて、臨也はきょとんと目を丸くした。慣れないことを言うと顔が熱くなってくる。だが今言わないといけない気がした。言っておく必要があると思った。

「え?」
「ちゃんと、俺も好きだからな。分かってるだろうな?」
「え、あ……ははっ」

静雄の肩に手を置いて、臨也はさっきまでとは打って変わって楽しそうに笑い出した。コロコロと笑いながら肩を震わせる。慣れないことをしたせいでまだ顔が熱い。笑われるのは不本意ではあるが、臨也が笑っているということ自体は悪い気はしなかった。
目尻にたまった涙を、臨也はまだ口角を上げながら指先で拭う。その顔は嬉しそうに見えた。自分の好意を表現するのは苦手な方なのだが、これならこれからはこういう事を積極的にやっていくのも良いかと思う。

「うん、うん、知ってる。知ってるよシズちゃん」

そんな顔をしてくれるなら悪くない。





それからの静雄は、自分の愛情を表現できると思われることならとにかく何でも積極的にやるようにした。抱き締める、キスをする、好きだと言う。普段なら恥ずかしくてとてもできないような行為も、これで臨也の不安が少しでも取り除けるならと何でもやった。むしろこれだけで臨也が安心してくれるなら安いものだ。だが、このあまりに「静雄らしからぬ」行為は、逆に臨也を不安にさせてしまったらしい。

始めのうちは素直に喜んでくれていた。だが段々とその中に戸惑いが見えて、また不安を感じさせるような顔をするようになった。その理由が分からなかった。もしかしたら似たり寄ったりのことをこなしているだけになってしまっているのだろうか、それとももっと何かした方が良いのだろうか。
色々なことを考えてしまって、訳も分からないままに静雄はもっともっとと焦ってしまう。後になって思い返してみれば、この時の静雄も少なからず暴走気味だったのだろう。

――その時は、唐突に訪れる。

ある時静雄の家にやって来た臨也に軽くキスすると、何故だか臨也は今にも泣き出しそうな顔をしていた。それがあの日の顔と重なって見えて、静雄は軽く息を呑んだ。

「……おい、いざ」
「シズちゃん、最近どうしたの?」
「あ?」
「最近、なんか変だよ。急にキスしたり、好きだって言ったり、いつもは恥ずかしがって全然してくれないのに」
「わ、悪い……」
「違う。別に謝ってほしいんじゃない」

それも理解した上で出てきた謝罪だ。臨也は泣きそうな顔で体を震わせて、触れただけで涙がボロボロ出てきそうだった。正直少し混乱している。良かれと思ってやっていたのに、なぜ変だとまで言われた上に臨也は泣きそうになっているのだろう。

「俺はそういう、恥ずかしがり屋なシズちゃんのことも好きだから、別にそういうのは良いんだ。でも、だから、シズちゃん最近変だよ。前までそういうことしなかったじゃん」
「まあ、それは……だから、俺も直そうと思って」
「あの日からだよね」

ギクリと体が強張った。言われなくとも、臨也がいつの日のことを言っているのかは察しがいった。

「やっぱり、気にしてる? やっぱり、怒ってる? ごめんね、俺だって本当は分かってる。シズちゃんがちゃんと男だってことも、俺が自分の我が儘を押し付けてるだけだってことも分かってる」
「別に俺も、謝ってほしいわけじゃ……」
「君に無理させてたんだってことも分かった。実は俺さ、新羅に叱られたばっかりなんだ。だから俺も、努力しようと思って、でもやっぱり、まだそんな勇気中々だせなくて。呆れたよね、気持ち悪かったよね。俺も自分にがっかりした」
「……い、臨也?」

暴走している気がする。臨也はこう言うところがある。普段は冷静に物事を見られるのに、何故か時たまこういう風に暴走して仰天するようなことを言い出して聞かなくなるのだ。



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