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どうにかしたい。全部臨也が抱える必要はない。何か勘違いしていないか、何か勘違いさせていないか、どうするのがいいのか、どうさせればいいのか。誤解があるなら一つ一つ解いていきたい。絶対セックスをしたいわけじゃない。無理をさせてまでするものではない。静雄はそう思っているし、それを臨也にも分かって欲しい。

「まず僕が言いたいのは」

新羅は言った。

「それってさ、良いことなんじゃないの?」
「……は?」

この眼鏡、今何と言った?

「え? いやだって君、ずっと臨也としたかったんだろ? じゃあ何が問題なんだい? やっと臨也がその気になってくれて、むしろ万々歳じゃないか」
「手前……マジか……」
「え? 違うの?」
『……悪い静雄。私にも何が違うのか分からない』

事情を知らないのだから、セルティがそう思うのは仕方がない。だが新羅、お前だけは許さない。

「手前……臨也がずっとやりたがってなかったのは知ってるだろうが……」
「うん。え? だから、やっとやる気になってくれたってことだろ? めでたいことじゃないか、今日はお赤飯でも炊こうかあああぁぁぁあああイダダダダ!」
「おい、いいかよく聞け。臨也はな、"その気"になったわけじゃねえ」
「分かった分かった聞く! 聞くからその手を離しいイタイイタイイタイ!」
『し、静雄! その手を離してやってくれ!』

セルティに言われて渋々鷲掴みにしていた新羅の頭から手を離す。しかしふざけた眼鏡だ。普通に考えて、照れ屋な恋人がやっとセックスをしてくれ気になってくれました、くらいの話をわざわざ相談する筈がない。いや新羅ならもしかするとするのかもしれないが、少なくとも静雄はしない。そもそも自分達はそんなプライベートな話を喜んでするような関係ではない。
いよいよ何を考えているんだこの眼鏡。セルティの前で恥を忍んで告白したというのに空気を読めないなんていうレベルではない。

「いやでもさ静雄、君が怒ってるのは分かったけど、ちょっと君も言葉足らずだったと私は思うわけだよ……」
「ああ?」
「うんだから……まあいいや。とにかく、順を追って話を聞こう」

真面目な顔になった新羅をジト目で見て、静雄はまた渋々、今度は昨夜の経緯を順を追って話していく。新羅は黙って聞いていた。全ての経緯を話し終えると、真面目な顔のまま、まず初めにこう言った。

「……なるほどね。セルティ、ちょっと悪いんだけど静雄と二人にしてくれるかな」

驚いて静雄は新羅を見る。セルティも僅かに驚いたようだったが、分かったとだけ言い残して部屋から出て行ってしまった。新羅も黙ってそれを見届ける。この行動にはさすがの静雄も困惑してしまった。あの新羅がセルティをわざわざ自分から遠ざけるとはどういうことだ。

「……お前大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ。セルティがいなくても君の相談は真面目に聞こう」

静雄の考えは見透かされていたらしい。新羅は苦笑すると、さて、と改めて話し出した。

「つまり君はさ、セックスはしたい、でも臨也に無理をさせるほどじゃないと考えてる。で、その上で臨也に誘われて困ってるわけだ」
「……一度は確かに嫌じゃねえつったんだ。でも駄目だった。なあ、まさかアイツって童貞か?」
「わお、すごいこと聞くね君」
「なんでアイツがあそこまで嫌がるのか分かんねえ。俺が男だからか?」
「…………」

新羅は意味深に口を閉ざすと、何か考えるように黙り込んだ。静雄も黙って新羅を待つ。セルティをわざわざ追い出したのには多分理由がある。

「そこなんだけどさ、静雄。君はセックスについてどう思ってる?」
「あ?」
「いや、一応聞いておこうと思って」
「そりゃ……」

それは、やりたいと思うからやるだけものだ。それ以外に特に言うべきことはない。セックスしたいと思うのは、一言で言うなら静雄に性欲があるからだろう。そしてそれを臨也に求めるのは、単純に静雄が臨也のことを好きだからだ。
確かに、ただ性欲を満たしたいだけなら自分で処理するなり風俗に行くなり方法はいくつかある。だがそれじゃあ意味がない。何故かと問われると説明がつかないが、静雄は臨也が好きで、だから臨也とセックスをしたいと思う。人間として当然の欲求だ。好きだからその体にも触れたい。そうじゃないと言う人間もいるだろうしその主張も否定はしないが、だからと言ってこの考えが間違いだとも思わない。別にセックスするのは悪いことではない。

「好きだからやる。そんだけだろ」
「そうだね。それじゃあ、セックスしない恋人をどう思う?」
「……まあ、それはそれでありなんじゃねえの」
「そうだね」

それからまた言葉を探すように暫く黙って、新羅は言った。

「臨也とセックスをしたい?」
「したい」
「嫌がる臨也に怒ってる?」
「別に」
「これからずっとセックスできなくても、それでも臨也と恋人でいる?」
「当たり前だ。 ……おい、何だよさっきから」
「だったら、君がすべきは君の愛を臨也に証明することだ」
「……はあ?」

さっきから一体何を言ってるんだこいつは。静雄は睨むように新羅に視線をやったが、当の新羅は飄々とした態度をするだけでそれ以上何も言おうとしない。愛を証明するだって? 何故そんなことを言われなければならないのか分からない。

だが考えてみれば確かに、新羅に相談する前から静雄が一番引っ掛かっていたのはその部分だ。臨也は静雄を好きだし、臨也も静雄のことが好き。そんなことは分かりきっている。たまに喧嘩しても擦れ違っても、捻くれ者の自分たちがここまで上手くやってこられたのはその信頼が根底にあるからだ。
そりゃあ、たまには不安になることもある。実際、この間はとうとう臨也に愛想を尽かされたのではないかとビクビクしていた。でもそういう時に限って、臨也は一番欲しい言葉をくれる。好きだよ。たった一言でいい。それだけで安心できる。

愛されているのだ。
それはいつも静雄が感じていることだった。

「臨也の愛は君に証明されてる。それはこの僕が保証しよう」
「……俺は違うっつーのかよ」
「俺から見れば十分に思えるけど、何せ相手はあの臨也だから、そりゃ一筋縄にとはいかないよ」
「おい、手前もしかして何か知ってんじゃねーのか?」
「言えば君はきっと怒るよ。臨也なんて泣いちゃうかもね。君に一番知られたくない筈だから」

立ち上がり新羅に掴みかかろうとした手が宙で止まる。新羅はその様子を慌てた様子もなく見届けて、椅子に座り直した静雄に微笑んだ。

「まあ、色々やってみなよ。理由なんて必ず知ってなきゃいけないものじゃない。臨也が一番喜びそうなことをやればいい。臨也の馬鹿げた不安なんて吹き飛ばしてやればいい。難しいことじゃない。そう、君の愛を証明することだ」

多分これ以上は何も言わない。静雄は膝の上で握った自分の拳を睨み付けながら、あの時臨也が見せた顔を思い出した。今にも泣きそうだった。一体何をしてやれば、あんな顔を見ずに済む? 静雄には何ができる? 思わずため息を吐きそうになってしまう。

結局また、振出しに戻ってしまった。



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