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一緒に帰っている間、シズちゃんは基本的に無言である。

黙って俺が帰るのについて来る。しかもわざわざ少し後ろをついて来るので、俺としてはいつ急襲を仕掛けられるんじゃないかと気が気でなかった。簡単にやられてやるほどヤワじゃないけど、怪力馬鹿のシズちゃんにいきなり後ろから頭でも掴まれてみなよ。一瞬で俺の頭は砕け散るね。脳みそパーンだ。グロ注意。
まだ俺は死にたくないんだよ、やりたいこととかたくさん残ってるしさ。最近のシズちゃんは暑さでますます頭がおかしくなってるみたいだから要注意だ。何をしでかすか分からない。

「おい」
「……なあに?」

シズちゃんはたまに口を開く。そういう時は大体意味が分からないことを言う。なんせ初めての時がアレだ。
以来俺はシズちゃんの前では段差には乗らないようにしていた。シズちゃんの言うことを聞いてるみたいで癪ではあるのだが、じゃないと何度でも引き摺り下ろされる。シズちゃんのしつこさたるや相当なものだ。俺の折れる方が早かった。折原だけに。

「もうすぐ、夏休みが終わるな」
「そうだねえ」

シズちゃんはまた黙り込んでしまう。でもせっかくなので、俺はかねてから聞きたかったことを聞いてみることにした。

「ねえ、シズちゃん。君は本当に俺のことが好きなの?」

連行されるみたいに毎日一緒に帰ってはいるけど、だからってシズちゃんがそれ以上のことを俺にしてくるわけでもない。俺は内心ではいつ攻撃を仕掛けてくるのかとビクビクなのに、シズちゃんだけ余裕綽々みたいな顔でいるのが許せない。

何なの? 嫌がらせならまだ何らかのアクションを見せても良さそうなものなのに、何もしてこないもんだから不気味で仕方ない。だから自分の頭をクラッシュされるグロい想像にまで手を出しちゃうんだよ。何とか言ってみろよ平和島。お前のやってることは意味不明で本当に精神的にクるんだよ。この俺がシズちゃんなんかの事で振り回されてるのは腹立つんだよ。

「好きだよ」

サラリと言った。あまりにも普通に言ったものだから、一瞬何に対する答えなのか分からなかったくらいだ。
思わず立ち止まって後ろを振り返る。シズちゃんはいつも通りの顔をしていて、俺の顔を黙って見返すだけだった。

ねえ、シズちゃん。

君は本当に俺のことが好きなの。だったら馬鹿だよ。君は実に馬鹿だ。
男同士だとかそんなことじゃなくて、もっと単純に、だって俺は君のことが大嫌いだ。そのくらいシズちゃんだって分かってるだろうに、馬鹿だなあ。俺なんかに惚れたって、そんな気持ちを利用されるだけだって、君は俺のことをよく知ってるだろうに。
だけどなんでだろう、君にはちっともそんな気は起らないや。なんでだろう。君が馬鹿すぎていっそ可哀相だからかな。ああ、違う。

きっと今年の夏が、いつもよりずっと暑いからだ。



夏休みが来れば一ヶ月以上この学校に来ることはなくなるだろう。部活動でチラホラ人が集まるとはいえ、もっとたくさんの人間が集まる場所なんて東京には腐るほどある。どうせなら俺はそっちに時間を有効活用したい。

「いいのか?」
「何が?」

終業式一日前だ。いつも通りに授業は行われるっていっても、とうぜん生徒のほとんどは浮き足立ってて授業なんてほとんど聞いちゃいない。夏休みになったら何をするか、何処に行くか、そんな妄想で頭がいっぱいでとても授業どころじゃないんだろう。
まあ俺も普通に夏休みは楽しみだから、そこは分からなくもない。一緒に遊ぶ友達とかいないけどね。こうやって昼休みに昼ご飯を食べるのだって、新羅じゃないならドタチンくらいしか相手はいない。

「最近静雄と仲が良いんだろう? 静雄はいいのか?」
「ちょ、止めてよドタチン、アイツの話を出すのは……」

油断すれば昼休みも連行されそうになる今日この頃だ。ドタチンと一緒に非常階段で隠れるように昼休みをやり過ごすのが俺の日課になりつつあった。シズちゃんの俺に対する執着たるや、相当なものがあるといってよかった。
そうだ認めよう、認めていい。シズちゃんは俺に惚れているのだ。いや、そう勘違いしているのだろうか。正気ならあのシズちゃんがこの俺を好きになることなんて絶対にありえないはずなんだから、頭を猛暑にやられているとみてまず間違いはない。
この夏休みが明ける頃には、またいつもの調子に戻っているだろう。そもそも夏休み中は会う予定もないわけだし、今日と明日さえ乗り切れば俺にはまたいつも通りの平穏がかえってくるはずだ。

――と、思っていたのだが。今日の昼休みも無事に終えて教室に戻ってみると、意外なところから平穏は俺の懐に戻って来た。

「今日は一緒に帰れないんだってさ」
「は?」
「だから、静雄君からの伝言。どうしても抜けれない用事があるから、一緒には帰れないって」
「はーあ?」

何を言っているのか分からない。そもそも俺たちは一緒に帰る約束をしているのではなく、俺がシズちゃんに半ば引きずられるような形になって一緒に帰ることになってしまっているだけだ。
だから勿論、シズちゃん側に何か用事が発生したというのなら、俺は嬉々としていつも通り一人での下校を満喫する。大体シズちゃんがいると寄り道の一つもできなくて本当に不便なんだよね。常に監視されてる気分になるし、気を張っとかないといけないしで良いことが一つもない。

それなのにわざわざそんな報告をしてくるって、自意識過剰にもほどがある。俺が残念がるとでも思ったのか? んなわけないだろ。
まあ、シズちゃんに追い回される危険がなくなったっていう安心感は得られるけどね。

「まあ、なんだ、その報告自体には感謝しとくよ」
「そう」

今日は久々に一人で帰った。



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