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好きだ、と言われた時にこう思った。ああ、こいつ頭おかしくなったんだ。
学ランごと無理やり掴まれた手首が熱かった、ぬるい空気が気持ち悪かった、キラキラ光ってる金髪が眩しかった。ねえ、なんでそんな馬鹿みたいに顔真っ赤にしてんの、暑さで頭やられたの。ねえ、シズちゃん。今さらそんなこと言われたって、信じてやれるわけないだろ。

ばっかじゃないの。早く死んで。










なんということでしょう、俺、折原臨也は、先日天敵であるはずの平和島静雄から告白されました。
タチの悪い冗談を言うようになったものだなと呆れかえったのもほんの数秒のことで、シズちゃんは俺の手首をぎりぎり掴みながら二回目の好きを口にする。それがあんまり真剣な目を向けながら言うものだから、賢い俺は分かってしまったわけだ。あ、こいつ本気なんだ。暑さで頭おかしくなっちゃってるんだ、ってね。

でも僕は分かってたよ、と新羅は言う。俺からすれば吃驚仰天である。
あれからというもの、シズちゃんから俺へのアプローチは露骨なものになっていた。一日限りの頭の故障ではなかったらしい。
マックシェイクをちゅうちゅう吸いながら、新羅は携帯に目を落としてどうでもよさげに言う。

「だって静雄は、どう見たって君のことが好きだったじゃないか」
「はは、新羅、殺すぞ」

今日はいきなり教室に押しかけてきたかと思うと、一緒に昼ご飯を食べることを要求された。頭がいかれてるとしか思えない。
勿論のことそんなお願いは丁重にお断りしてやったわけだが、シズちゃんのしつこさと言ったらこの俺を辟易させるレベルであった。しつこいと言ったらなかった。できれば早く死んでほしいと切望するレベルであった。

「僕は、静雄が臨也を好きだってことは前から気付いてたよ。気付かない君の方が、むしろ鈍いと思うけどなあ」
「気付くわけないだろ。アイツ俺のこと見た瞬間に襲い掛かって来るんだぞ」
「愛だねえ」

……愛だと?

人のことを「臭い」と言いながら追いまわしてノミ蟲扱いし、躊躇なく拳を振りかざすは標識振りますわで俺を追い詰めるあの殺人行為が、言うに事欠いて「愛」だと?

「新羅……お前は愛を分かってないよ」
「それ、臨也には言われたくないなあ」

新羅は笑いながら手に着いたポテトの油を拭き取った。俺としてはこんな体に悪そうなものは口に入れたくもないが、愚痴に付き合わせる対価がこれだったのだから仕方ない。
しかし人に奢らせといてなげやりな応対だ。あの筋肉ゴーレムに求愛される俺の心労というものを新羅は分かっていない。

大体俺は未だに信じられないのだ。平和島静雄といえば、その姿を見ただけで怒りが頂点に達し見境なくその場にあるものを投げて暴れまわるくらい折原臨也を嫌っているということが個性であるといってもいい。
文字通り、まさに破壊的に俺のことが嫌いであるはずだ。これまで何度殺されかけたか分からない。
そんな奴に今さら「実は好きでした」などと言われて簡単に信じられるわけがない。

うだるような暑い夏だ。恐らくこれに頭をやられてしまっているのだろう。シズちゃんも、そして新羅も。
だってシズちゃんが俺に惚れてるなんてありえない。だったら今までの喧嘩三昧の日々は何だったというんだ。
流行りのツンデレか何かか? そんな命がけのツンデレは断固いらない。

「愛の表現方法なんて人それぞれだよ。静雄君はただ不器用なだけだ」
「いや新羅、アレは本気だ。アレは本気で俺を殺しにかかってる」
「そうだけど、そうじゃなくてさ」
「なんだよまどろっこしいな」

俺はイライラと新羅のナゲットに手を伸ばした。小腹がすいたのでついつい口に入れて咀嚼してしまったが、やっぱりというか旨くない。というか不味い。シズちゃん死ね。

「まあさ、信じる信じないはこの際別として、臨也も鬱陶しがるくらいならはっきりふっちゃえば? なあなあな態度取っちゃうから静雄も期待するんじゃない?」
「ふざけろ。期待させるような態度は微塵も取ってねえよ」

口直しに爽健美茶を飲んで、ふざけたことを言う新羅を睨む。つーか見てれば分かることだろ。俺がシズちゃんが嫌いだってことくらい、わざわざ口に出さなくたって分かることだろ。もし、俺が少しでもシズちゃんのことを好きになる可能性があるなんて思っているのだとしたら、それはシズちゃんがとんだ勘違い野郎だったというだけのことだ。
少なくとも俺は自分のことを殺しにかかって来る奴のことを好きになったりはしない。というか人間じゃないという時点で既に圏外だ。化け物お断り。

「ま、君がそう言うならそういうことにしておくけど。だって僕には関係ない話だしね」

言いながら新羅は立ち上がった。

「君が素っ気なくしてれば、静雄もその内諦めるんじゃない?」

適当なことを言って勝手に歩き出す。ドリンクもポテトもナゲットも、全てなくなっていた。





とはいえ相手はあの平和島静雄である。そんなに都合よく物事を進めてくれるはずがない。そもそも、そんなに簡単に行動の読める奴だったら俺だってここまで露骨に対立することはなかった。何を考えているのか全く分からないところが、最高に俺をイラつかせてくれるシズちゃんのデスポイントである。
あ、ちなみにデスポイントって「死んでほしいくらい大嫌いなところ」の意味ね。もしくは「いっそ死んでくれた方がましなほど俺をイラつかせてくれる点」って感じかな。まあつまるところ、シズちゃんが俺の思い通りになってくれたことなんてこれまで一度だってないわけなんだけど。

「臨也、今日は一緒に帰るぞ」

それにしてもシズちゃんって、普段一体何を考えながら生きてんの?

全ての授業を終えて大人しく下校しようとする俺の前に立ちはだかったかと思うと、何かを言う隙も与えずこの宣告だ。
え、マジで何言ってんの?
俺は半ば呆れかえりながら目の前の長身の男、平和島静雄を見上げた。俺よりも高い身長が余計に俺をイラつかせる。実に腹の立つ男だ。読めない思考回路も俺より高い背も金色の髪も低い声も全て、俺からすれば憎たらしくて仕方がない。
シズちゃんだって同じように俺のことを嫌っていたはずだ。この新種の夏バテから早く回復してくれないだろうか。できれば夏休み前までにはいつも通りになっていて欲しい。

「は? シズちゃん頭大丈夫?」
「いいから帰るぞ」
「どうも大丈夫じゃないみたいだよ。新羅に診てもらったら?」
「お前確か徒歩通学だったよな?」

なんということでしょう。哀れなことに、頭だけでなく耳までこの暑さにやられてしまったようだ。
頑丈であることだけが取り柄なのに悲惨なことになったものだ。これだから夏は怖い。熱射病とか人を殺すからね。さすがのシズちゃんも自然の猛威には勝てないってことなのか。どうでもいいがさっさとそこをどいて欲しい。シズちゃんのでかい図体が邪魔して靴を履きかえられない。

いつまでも俺の前からどこうとしないシズちゃんを諦めて俺が右に避けようとすると、シズちゃんも右に寄って来た。ならば左だと進行方向を変えてみると、シズちゃんもまた左の方に身を寄せる。

うっぜ!
シズちゃんうっぜ!



あきゅろす。
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