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一ヶ月経ったところで珍しいなと思った。
三ヶ月経った頃にはどういう風の吹き回しだろうと思った。
そして半年が経った今、ああそういうことだ、とやっと納得できた。





シズちゃんに恋人ができた。
それ自体はいつものことだ。そう、いつものことだね。

でもさ、違うんだ。
いつもならすぐに別れる。だけど、今回はそうじゃなかった。一ヶ月経っても三ヶ月経っても、そして半年が経った今もまだ、シズちゃんはまだ同じ人と付き合い続けている。

きっと良い人なんだろうね。
俺がそう言ったときシズちゃんはいつものように眉をひそめて、でもはっきりと「俺には勿体ないくらいだ」と言った。
ああちゃんと愛してるんだって、だから俺にはすぐに分かった。
そんな顔もするんだね。そんな顔もできるんだね。
俺は不機嫌そうなシズちゃんの顔を盗み見て、なんとも酷くやるせない気持ちになった。
俺なんかよりずっと早く、君は恋を見つけたんだね。


俺は今、臨床心理士の資格を取るための勉強をしている。
普通の企業勤めは君じゃきついよ、と新羅が言ったからだ。俺自身も多分そうだろうなと思う。

色んなことが少しずつ変わっていく。
俺を置いて行っていた時間の流れが、今度は俺の背中を押してくれているようだった。
かつての俺を知らない人間と新しく出会ったり、その人との交流をさらに深めていったり、新しくお気に入りの場所を見つけたり、何度もそこに通ったり。

そうやって新しい自分を作り上げていくのだ。
思い出せもしない昔のことにばかり構っていられない。
それなのにどうして俺は、静雄君なんかの恋人を気にしてしまっているんだろう。

「臨也さ、門田君に会ってみる?」

新羅はたまに、俺の勉強を見てくれるようになった。
勿論俺が新羅のマンションに行く。セルティはいたりいなかったりだが、いると新羅の意識がどうしてもそっちに向かってしまうので、俺としてはいないほうがありがたかった。
セルティ自身は好きなんだけど、新羅がほんと、全力で俺を放置するからさ。

「門田? 誰?」

今はセルティはいない。
新羅は俺の解答した問題に丸をつけながら、世間話のついでというように言った。

「高校の同級生。結構君と仲良かったんだよ」
「ふうん」
「君は覚えてないだろうけどね。最近見かけないけど臨也はどうしたんだって、門田君から聞かれたから」
「そっか」
「興味ない?」
「さあ……分からない」

俺はもう、既に新しい自分を作り上げつつある。
今さら過去の自分を知る人物と会うのはなんだか複雑というか、正直なところ具合が悪かった。

俺が黙り込んでいると、新羅は何かを察したらしい。

「いいよ、無理に会わなくて。でもさ、門田君はわりと本気で君のことを心配してたんだ。それだけは分かってあげて」
「……うん、有難いなとは思うよ」
「それでいいよ」
「……あのさ、新羅」
「何?」
「シズちゃん……」

言いかけて、口を噤む。
俺は新羅に何を聞こうとしているんだろう。後先考えずに喋るものではない。
いくら俺が気にしたって仕方のないことなのに、どうしてこんなに同じことばかり考えてしまうんだろう。

シズちゃんの恋人。今までとは全く違う、まるで本当の、本物の恋をしてるみたいな。

「……臨也? 静雄がどうかした?」
「いや、別に。……あのさ、静雄君って……きっと根は優しい人なんだろうけど、俺には少しも……」
「んん?」
「……ごめん、やっぱり忘れて。最近は自分が何考えてんのかも分からないんだ」
「君がそう言うなら、俺は気にしないことにするけど」

要領を得ない俺の話に付き合ってくれる新羅も、結局はイイ奴なんだろう。

新羅は俺に解答を返した。
案の定、解いていて分からなかったところにはバツがついている。

「これ、全然分からないんだよね」
「ああ、それね」

新羅は身を乗り出して、俺に解説を始めた。新羅の説明は素直に分かりやすいと思う。
何度も同じことを聞いてしまったりするのは申し訳ないのだが、案外新羅は親切に答えてくれる。

「今は駄目でも、いつか分かるようになるよ」

そうだといいけど。



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