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俺と静雄君ってなんだろうと思う。

俺が記憶を失くす前の、元々の関係を言ってるんじゃない。今のこの関係のことだ。
知人と言うほど遠くはないなと思う、でも友人だと言ってしまうほどには近しくない。

なんだろう。会う頻度だけなら確かに高い。
でもそれはお互いが会いたいから会っているというよりは、静雄君の罪悪感からくる事務的行為で、そこに他の感情が込められているわけでもないと思う。

無理しなくていいよ、別に怒ってないし、不便だけど悲しくないし、責めてもない。

だけど、真面目な静雄君はそれじゃあ気が済まないらしい。
分からないんだろうな、と思う。ただの義務感からだけ足を運ばれる、俺は強く拒絶できない、俺はシズちゃんが嫌いじゃない、でもシズちゃんはきっと俺が嫌いだ。
虚しいというのはこういう気持ちなのかもしれない。

『臨也さ、仕事を見付けなよ』

いつか電話で新羅が言った。確かにそれが一番だと思う。

何か、打ち込めることが欲しい。今の俺の居場所を見つけるべきだ。
お金のことはどうでもいい。新しい自分が欲しい。誰かから聞く俺じゃなくて、俺が自分で見付け出したい。
過去のことなんてどうでもいいとか、こだわりたくないとか、そういうことじゃなくて、今の俺を大切にしてあげないと俺が可哀相だ。


恋がしてみたいってのも、だからそういう気持ちからきてるのかもしれない。

誰かを好きになるということ。愛しく思うということ。大切に思うこと。
どれもこれもが俺には未知なことで、でも、それは今の俺にしか持てない感情だ。

どうしても記憶を取り戻したいと思えない。
それはもしかしたら、記憶を失くす前の俺がそれを望んでいたからなのかもしれない。





俺と静雄君ってなんだろう。

なのにそんなことばっか考えてて、きっと友達ではなかったし、顔見知りという程度でもなかったはずだし、でも俺はシズちゃんのことをなーんにも覚えてない。

ねえ、シズちゃんはどう思ってんの。
君のせいで俺の人生は強制リセットされちゃったんだ。
俺を見捨てたってなに。どういう意味。
嫌いな奴の記憶を奪って、罪悪感のせいでその面倒見なくちゃいけなくて、でも俺が本当に知りたいのはそんなことじゃない。
君を知らない俺のことを、君はどう思いながら見てるんだろう。

恋をするってこういう気持ちに似ているのかもしれない。
静雄君のことばかり考えてるよ。

もしかしたらって最近思う。
俺はシズちゃんに嫌われてて、でも俺はシズちゃんと仲良くなりたくて、まるで片思いみたいな、そんな関係だったんじゃないかって。
不思議な男。
そういえば“初めて”会った時から、俺は静雄君のことがちっとも読めなかった。

謝っていた。その癖俺のことを「許さない」と言っていた。
覚えてるよ、まだ。なのにどうして、それより前のことを覚えてないんだろう。
俺は悲しいのかな。
俺は寂しいのかな。

新羅のことだったり、セルティのことだったり、今の俺が知ってる人たち以外にも多分、“俺”のことを知ってる人はいる筈で、でも俺は覚えてなくて。そういう人たちの気持ちは今どこにいってるんだろうか。


シズちゃん、君は俺のことどう思ってたの。
俺は君のことどう思ってたの。
ねえシズちゃん、君は今の俺をどう思ってんの。

ねえ。


「せめて、君のことだけは覚えていたかったな」


多分きっと、無理だったんだろうけど。





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