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最低だ女性の敵だと騒いでいると、無視を決め込んでいた静雄君もいい加減イラついたのかこちらを振り返った。
しかし凶悪な顔だなと思う。普通にしていれば大人しそうなのに。

「うっせんだよ臨也君よお……人のやることに一々口出しやがって、手前は一体何様のつもりなんだ?」
「その台詞はそのまま君に返すよ」

体を起して、ベッドの上に座る。
静雄君は煙草を消すとイライラと舌打ちをした。女の子達は、一体こんな男のどこがいいんだろう。すぐにキレるし愛想はないし、これならまだ新羅のほうが……いや、それもないな。

「なんだよ手前、じゃあ俺にどうして欲しいってんだよ」
「別に、普通のことだよ。恋人を大切に扱って、愛してあげる。何も特別じゃない、当たり前のことだろ?」
「……どうだろうな。俺は化物だから」
「はあ?」

何言ってんだこいつ。もっとマシな言い訳は思い付けないのか。

「帰る」

言ったと思うと、さっさと立ち上がってもう扉に手をかけている。
俺は引き止めないし、静雄君も俺の返答を待ったりしない。なんだか妙な関係になってしまった。静雄君も俺が嫌いならもう関わらなければいいのに、やはり俺の記憶を奪ってしまったことをまだ気にしているのだろうか。律儀なものだ。

まあその割には、俺を「見捨てた」らしいけど。

「――どうだった?」

静雄君が来た後は、何故か必ず俺の様子を新羅が覗きにやって来る。
静雄君を怒らせなかったかと、俺の記憶に変化がないかの確認らしい。無駄に終わることがほとんどだけどね。

「やあ新羅、いつも通りだ。静雄君はどうにかならないのかな?」
「どうって?」
「あの女遊び。下世話だとは思うけど、あれは酷いよ」
「本人に遊びのつもりはないと思うけど。君に言われちゃお終いだなあ」
「何それ。俺に恋人なんていなかったんだろ」
「まあねえ」

要領を得ない返答をすると、新羅は俺の隣に腰掛けた。
ということは今ここにセルティはいないのだろう。彼女がいれば、新羅が率先して俺の相手をすることは滅多にない。優先順位がハッキリしていて清々しい。

「静雄君ってさ、前からああなの?」

折角俺の相手をしてくれる気になっているようなので、気になることを訊いてみる。
新羅は静雄君と小学校以来の付き合いらしい。俺より長いという訳だ。記憶があった頃の俺より静雄君に詳しいんじゃないかと思う。

「いや、どうだろうね。昔から惚れっぽくはあったけど、今みたいに実際に付き合ったりするようになったのは最近かな」
「へえ。遊び慣れてるようには見えないのに、意外だよね」
「愛されたがりなんだ」

静雄君の出て行った扉をぼんやりと見つめながら、新羅はどこか寂しそうな声で言った。

「病的にね」

――それなら、同じように愛しかえすべきだ。

何故か咄嗟に出てきた反論を押し殺して、俺はなんとか他の言葉を探した。

「……新羅に言われちゃ、お終いな気もするけど」
「え、何それどういう意味。ねえちょっとどういう意味?」
「さあ。自分の変態じみたセルティへの求愛行動を思い返してみればいいんじゃないかな」
「なんだそんなこと! だって愛してるんだからしょうがない!」
「…………」

なんだか、開き直ったストーカーの言い訳みたいだ。
少し迷ったが、これは言わないでおくことにした。

一途にただひたすらセルティに恋してる新羅が、ほんの少しだけ羨ましい。
迷うことなく、もちろんこれも言わないでおく。



あきゅろす。
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