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夢見がちな恋に恋

大好き!
かわいいかわいい私の子。純粋で真っ白、かわいいあなた。ずっとそのままでいてね、そのまま無垢な君でいてね。
夢見がちに恋させて。
大好きよ。かわいいかわいい、私の、










――は?

まずは、その一言に尽きた。



嘘、うそ、嘘でしょう。朝特有の、気だるい感じ。臨也はベッドに体を横たえながら、パチパチパチと瞬きを数回。
隣に静雄が眠っている、なんて、そんなのはいつもことだからノープロブレム。恋人なんだから当然でしょう。

問題なのは、その格好。ワッツハップン? あなた、どうして裸なの?

「……えーっと、昨日は確か、一緒に映画見て……」

記憶の引き出し漁ってみても、思い出せるのは途中まで。臨也の頭は混乱カオス。何がどうしてこうなった。オーマイゴッド! よく見りゃ自分も裸じゃないの!


違う違う。そんな馬鹿な。だってそんなはずがない。臨也と静雄の付き合いは長いけども、これまでこんなことは一度だって起こらなかった。
慌ててベッドから抜け出せば、内腿に何か液体が伝う。そんなはずない! 臨也は堪らず悲鳴をあげて、へなへなその場に蹲った。

「うそ、うそ」

そんな馬鹿なこれは夢?

腰が重いのも内腿にドロドロ気持ち悪いものが伝ってるのも、ぜんぶぜんぶ悪い夢。
静雄と臨也は恋人同士、愛し合っていますとももう何年も。だけどこんなことはなかった、そんな雰囲気さえ今までなかった。

だって臨也がそうしたから。キスは触れるだけのバードキス。ちゅ、と触れるだけで静雄は真っ赤。たまに臨也がふざけて唇を舐めてやると、ますます顔を赤くして照れたように文句を言う。

セックスなんて言語道断! 
そりゃあ臨也も静雄も男だから、性欲持て余すことはあるけども、それでもやったのは触り合いだけ。それ以上なんて進まないし、進ませない。
静雄はそれだけで何も言わなかった。だってあの子は純な子だから、きっと男同士でもセックスできるだなんて、そんなことは知りもしない。


かわいいかわいい、臨也の静雄。
昔からずっと見てきた、何より純粋で、潔白で、真っ白な静雄。いつまでもそのままでいてね。純粋なあなたが好きよ。

汚いものなんて見なくていい。ぜんぶぜんぶ隠してあげる。
好きだよ、と言ってあげたときの、俯く顔の可愛らしいことと言ったら!
そのままでいてね、かわいい子。
機嫌を損ねたらキスしてあげる。悲しいことがあるなら慰めてあげる。だからそのままでいてね。いつまでも純粋なあなたでいてね。

なのに、なのに、なのに!


「なんで、こんな」


だれかどうか嘘だと言って!

あんなに綺麗だった子を穢してしまったなんて、そんなのきっと嘘でしょう。違う違う、これは何かの間違いで、静雄はいまも綺麗なまま。

震える足で立ち上がって、ぐっすり眠る静雄の顔をじっと見る。ああかわいい、天使みたいに綺麗な寝顔。
やっぱり嘘だ、こんなに綺麗な子が穢れてしまったなんて、そんなことがあるはずない。
あるはずないって思わせて。腰が重いのも内側から垂れる液体も、ぜんぶぜんぶが悪い夢。

臨也はなんだか泣きたくなって、鼻を啜って目を拭った。
ずっとずっと愛してきた。綺麗なままでいてくれるように、だってこんなに真っ白な子だから、このままでいてくれないなんて嘘でしょう。

「ん……いざ、や?」

寝惚けてるのか覚束ない声。
静雄はうっすら目を開けると、舌足らずに臨也を呼んだ。天使みたい、と臨也は思う。
愛し愛しい私の天使。

「いざや」

手を伸ばすと、臨也の腕に触れる。あ、と叫ぶ間もなくベッドの中に引きずり込まれた。
首筋に鼻先を擦りつけられて、やっぱり寝惚けてるのだと判断する。くすぐったい。

たまらずクスクス笑っていると、そのままそこを舐められた。ヒッと臨也の口から悲鳴がもれる。
なになになに、何をされた?

「いざや」
「シ、シズちゃん……?」

寝惚けてる。
向かい合っても、静雄の目はまだ覚束ない。なんだか危険な気配がして、脱け出そうとしても腰を掴まれて動けない。

なに、なに、何が起きてるの。

混乱する臨也の首に静雄は吸いついて、唇を離すと赤い赤い痕が残った。
なになになに、どうしたの、何があったの。今までこんなことしたことなかったのに。

「かわいい、いざや」

そんなことだって言わないでしょう。

照れ屋なあなたはそんなこと言わない。
拗ねたように唇を尖らせて、臨也が好きだと言ってあげるのに頷くのが精一杯。それで良かった、そんなところも大好きだった。
なのにどうしたの、どうしてしまったの。

私のかわいい天使は何処にいったの。

フーアーユー? 私の天使はそんな目しない。そんな獣みたいな瞳はしない!

「かわいい」
「シズちゃ、……んっ」

言い終わる前に唇を押し付けられて、ぬるりと舌が侵入してくる。うそ、うそ、うそ。臨也の静雄はこんなことしないし、そもそもこんなことは知りもしない。
いつものキスは触れるだけ。愛を確認するのに欲なんていらない。
なのにこの捕食するようなキスは何なの。

かわいい天使。
そのままでいてね。真っ白なあなたでいてね。
欲だらけのセックスなんて必要ない。
あなたと私、愛を囁き合っていればそれだけで十分でしょう。

蕩けるような甘いキス。
こんなの臨也は教えてない。こんな欲にまみれたキスは教えてない。
臨也は本気で泣きかけながら、心の中で悲鳴をあげた。


こんなの、おれの可愛いシズちゃんじゃない!













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夢見がちな恋に恋
(こんなのぜんぶうそっぱち!)


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