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行く宛も無く走って俺は小さな喫茶店に入った。髪の乱れなんか気にせず適当な飲み物を頼んでカウンターから離れた席に腰を下ろす。久しぶりに見る皆瀬の顔は相変わらず無駄に整っていて、高い鼻や鋭く上がった眉も美しかった。

初めは俺から彼に話かけるべきだろうと思って口を開いた瞬間、先に声を出したのは皆瀬の方だった。



「六実様、申し訳ありません。亜美さんには理解してもらえたのですがやはり規約違反でしたので。パウロニアとウェステリアの契約が私の所為で破談になってしまいました、本当に申し訳ありませんでした。」

「・・・。」

「やはり貴方以外の人は無理でした。初めて会った時から強く惹かれ、思っていましたから。それでも貴方を傷付けまいとしたのですが、本当にっ…」

「皆瀬、」



髪をボサボサに乱して泣きじゃくる皆瀬を俺は慈しみの目で見つめた。お互いにお互いでなきゃ無理だった、お互い求め合うモノは同じ、お互いだった。

俺は皆瀬が好きで皆瀬も俺が好き。いつからかコイツのおかしな愛情に俺自身、突き動かされ大きく変わってしまったようだ。



「でも…ウィステリアは、」

「あぁ、アレは親父の会社でもあるが皆瀬や、オレの会社でもあるからな。今度はオレが、提供を結んでくれる会社を探す。んで、絶対にウィステリアを立て直す!」

「…六実、」

「んぁ?」

「カッコイイ、すごく…良い顔してる。」

「なっ!」



形勢が逆転出来る可能性は低いかもしれないけどまだ時間という余地はあるし俺には皆瀬が居る。

親父や周りに何を言われようと彼が居ればなんだってやれる、そんな気で満ち溢れていた。









ウェステリアカンパニーは日本一の高級ホテル「ウエストプリンスホテル」と連繋してホテル内の料理を全て担うことになった。

ウェステリアにはレストラン事業があって都心にある有名レストランを4つ経営しているのだが、そこのメニューも取り込みホテルの売上も上昇。おいしいと評判も高くそのレストランが4つとも三ツ星に認定された。



「藤堂社長、西大路社長からお電話です。」

「はいはいっ!でもちっと待って山石さん、今忙しいから皆瀬に渡しといて!」

「あ、はいっ!皆瀬さーんっ!」



慌ただしく働く俺はウェステリアカンパニーのトップ、親父に認めてもらうまでは長いな月日が経ちもう無理かもと諦めていたがトップになって明日で4年目になる。

社長として働きすぎた親父は会長に就任して今は世界一周旅行に母さんと出掛けていて帰ってこない。



「はい、今藤堂はクリスマスケーキのプロジェクトを進めています。」

「皆瀬、西大路社長に変わってくれ!」

「はい。」

「あっ!もしもしこんばんは、西大路社長!クリスマスイベントの案…どうでしたか?」



社員が作ったクリスマスイベントのロゴ選びに悩んでいた俺は忙しない様子で皆瀬から受話器を引ったくり西大路社長とイベントについて話し合った。ウエストプリンスホテルはウェステリアの救世主と言っても過言では無い、あの高級ホテルであるウエストプリンスホテルに目を付けて貰えるなんて…俺はただツイていただけかもしれない。

でも皆瀬が自信をくれたから、今こうしてウェステリアは復活することが出来たし、何せ好きな人と居ることが出来る。



「はい、ではよろしくお願いします!失礼しまーす。」

「六実様、」

「ん?」

「もう時計は21時を過ぎました。なので私は…」

「あ、」

「先に帰って夕食の準備をしています。早く帰って来てくださいね、社長。」



皆瀬にそんなことを言われると顔がニヤける。それはまるで新婚気分、料理が得意な皆瀬は勤務時間ピッタリに帰っておいしいご飯を作って待っていてくれる。

いつもは21時過ぎまで働いているのだが、今日は何となく皆瀬と一緒に帰って一緒にご飯を作ろうと思った。





[*Ret][Nex#]

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