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誓約書を書けば俺達の心は固く結ばれていたのだろうか。

否、それは無い。
そんな紙切れ一枚で自分達の心を繋いでおける訳がない。

時が経てば人はまた人と出会い、また人を好きになる。
そのブランクが皆瀬には無かっただけで、オレは大学時代から恋多き男だったからまた違う人を愛せるはずなんだ。



「藤堂、お前はゲイに目覚めたのか?」

「ちげぇーよ、」

「何が違う。ずっと側に居た俺じゃなくて、大学時代暗いグループに居た皆瀬とかって言う眼鏡とお前、ヤッてんだろ。」



長い髪をかきあげながら中村はベッドに俺を組み敷いて口惜しい顔で唾が飛ぶほど叫んでいた。

中村とは確か…大学時代の合コンで俺と組めば最強になれんぜ、とか言ってオレからコイツと仲良くなったんだ。

それに対して彼は嬉しそうに女とヤれるーとか言って。二人で女評価して捕まえてセックスばっかしてたな。


なのに、



「俺はお前を抱きたかった。」

「ちょ、」

「俺の女になれ、藤堂。」



優柔不断な中村の力強いキスにオレはダメだと一瞬思ったが、結婚式での皆瀬の様(サマ)を思い出して瞳を閉じた。

結局、お互い寂しさを紛らわすための関係だったのかもしれない。

皆瀬は孤児院育ちで、ちょっとばかし頭がおかしくなっちまってたんだ。
それにオレはあの異様なストーカーぶりに退くも退きすぎて頭がおかしくなっちまってたんだ。

そうに違いない。



「中村は俺を捨てないか?」

「は、」

「俺、もう裏切られるのだけは嫌なんだわ。」



泣きそうで震える顔を包む中村がぐっと俺を抱き寄せ大丈夫と何度も耳元で囁いてくれた。

コイツにもきっと裏切られて、また皆瀬みたいに結婚されて。だからハナから本気にはならないよう。

皆瀬以外、見つめないよう。



「とりあえず、気持ち良くなろうぜ。服、脱げよ。しゃぶってやる。」

「藤堂、」



他人とのセックスに溺れれば、アイツを思い出さなくてすむから。

言葉だけでは繋げないアイツとの約束をオレは簡単に切り捨てた。









皆瀬が偉そうにオレだけを呼び出したのは食事会を欠席した日から一週間後のこと。

俺がノンケの皆瀬です。と、顔に書いてあるように一瞬見えて拳をきゅっと握りしめた。



「六実様、」

「・・・。」

「結婚式での貴方の科白、大分反響がありましたよ。」



厭味っぽく話す皆瀬のしたり顔に腹が立ったオレは今すぐこの作った拳で顔面をボコボコにしてやろうかと思った。

でも、何度も見たあの素晴らしい身形だ。絶対敵わないと思って簡単に引いた。



「桐谷さんは知っています。心が彼女に無いことも、私が愛しているのは貴方だけと言うことも。」

「・・・。」

「身体も勿論、貴方以外はぴたりとも反応いたしませんで。」



目の前に居る最低な男は、こっちに行けばこう言うみたい。

奥さんの前でもきっとオレの逆を言っているに違いない。じゃなければ彼女が可哀相だ。

動物なんだ。
身体は誰にだって反応する。オレは中村とヤッて正直気持ち良かったし、皆瀬だってアナ突っ込めば誰だって変わりないのにな。



「心は貴方にありますよ。」

「・・・。」

「だから引き換えに貴方の心を、貴方の心を私にくださ、

「お前、ずっと前から気持ち悪りぃんだよ。もう二度、俺の前に現れんなよな。」



酷いことを言って後ろを向いたオレは初めての感覚がこびりついて離れず、何秒かその場に立ち尽くしていた。

その何秒かで皆瀬が抱きしめてくれたらいいなって、思ったら皆瀬はオレのこと抱きしめてくれたから。

でも、全て終わった感覚、関係、想いに爆ぜたオレは皆瀬を振り切って部屋を出た。





[*Ret][Nex#]

あきゅろす。
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