decay cross
広大な青空に包まれた快晴の美しい日。大好きな人が結婚しました。
背の高い、彼に合った純白のタキシード。
隣には亜麻色のアップヘアー、胸元が大きく開いたウェディングドレスに身を包んだ笑顔の女性。
二人はバージンロードの真ん中で生涯共にあることを誓願し、婚約指輪を嵌め、誓いのキスをしました。
僕だって彼と生涯共にあることを誓願しました。でも、相手は僕ではありません。
ある違いから、絶対に越えられない壁を僕は受け入れることしかできないようです。だけど、不思議なぐらい哀しくなくって、涙は全く出ませんでした。
そして教会からゆっくり出て来た主役の彼に精一杯の笑顔で花を散らしました。
「皆瀬、おめでとう!」
僕の前でちょうど立ち止まった大好きな人。反射的に思わず口にしていた偽りのおめでとう。
しっかりと伝わったはずのおめでとうは彼をすり抜け、空に溶けていくような気がしました。
だからすぐさま言っていないフリ。下を向いたら自分の前だけ地面が黒く滲むのが分かりました。
『哀しくない』
それは全くの嘘。
僕は涙を流して泣いていたのです。
「六実様、」
「…っ」
「“ありがとうございます”」
心揺さ振る、大好きな人のありがとう。偽りであって欲しい本物の言葉。
僕らはもう二度と、元の関係には戻れません。
そうと分かった刹那、彼とのいろんな思い出が蘇って身体を大きな針が真っ二つに引き裂く。そんな苦しい気持ちになりました。
何を掛け違えたのか。
僕にはわかりません。
最初から、知り合っていなければお互い違う人生を幸せに生きていられたのかもしれません。
しかし、それも全て今更です。
「亜美ちゃん、お幸せに!」
結婚相手は『亜美』という方らしいです。
結婚をするなんて当日の今日まで聞いていなかったので、今ある現実を一言も聞いていない僕は“らしい”と仮定するしかできません。
こんな男らしい姿の彼を見るのも初めてです。
「じゃあ、おまちかね!ブーケトス行きますッ!」
掛け声とともに亜美さんが投げた白い花束のブーケは青空に溶け入るように高く舞いました。
そのまま何もなかったように僕らの思い出も消えてなくなればいい。
偏屈なことさえ想いました。
でも、重力に逆らわず舞い降りる彼と彼女の幸せ。
それはぼーっと立ちすくむ僕の頭上に降り懸かりました。
「六実君、おめでとう!」
「よかったね!」
「うらやましいなっ!」
僕の気持ち、火に油を注ぐ五月蝿い野次。
怒りか哀しみか分からないこの感情。
他に訴えるにも訴えられないから、今すぐ消えたいと心底想いました。
「六実様ッ!」
大好きな人の大好きな声で名前を呼ばれます。
だけど返事はしませんでした。
「・・・。」
「六実様と幸せ、はんぶんこ。次は貴方のば
「うるせぇっ!!黙れクズ!お前の顔なんか二度と見たくねぇよ!さっさと、さっさと消えちまえッ!このゲイ野郎!」
空気をピシャリと変える非道な言葉。
真面目な彼と僕は合わないこと、全ては性格の悪い僕を更正するための演技だったということ。全部最初から分かっていました。
だから今に後悔することもないと口を大きく開き叫びました。
「皆さん!コイツ、実はストーカーで男好きなゲイなんですよッ!だからこんな奴、結婚して幸せになんかなれるわけないんです!」
「…六実様ッ、」
「今までだって女抱けなくて病気みたいに男ばっかとセックスして!聞いて呆れるな…こんな奴が女と結婚なんて、あはははっ!!」
酷い暴言を吐いた僕は笑いながら式場を飛び出しました。
大声を出して思ったことを言ったはずなのに気持ちは全く楽になれませんでした。
だから少しだけ。気を楽にするために彼との日々を思い出してみることにします。
[Nex#]
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