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巧妙な言葉に頭が混乱してしまったもん吉くんは瞬間、さんほうちゃんの心が知りたいと思いました。
そのわずか一瞬、動揺している隙に振り上げられた馬鍬が思い切り頭にぶつかり、もん吉くんの大きな身体は壁にバンッとすっ飛びました。加減無く飛ばされたもん吉くんは頭から血を流してまでも立ち上がろうとします。
「もん吉!大丈夫ですか?」
「ってぇ…、っっでも、お師匠様の前でカッコわりぃとこは見せらんねぇもんなぁ。」
「ほぅほう、さっすが…体は丈夫のようだね。」
「…チッ、」
慌ててもん吉くんに駆け寄るさんほうちゃんは今にも泣きそうな顔をしていました。さんほうちゃんはとってももん吉くんのことが心配なのです。
しかし単純なもん吉くんは猪の妖魔の罠とも知らず、さらに口車に乗せられてしまいます。
「“お師匠様”なんて…アンタらどんな関係?」
「あぁ?」
「逆に人間好きの妖魔も珍しいよね。なんか裏でもあるんでしょ?」
「…ッ、」
再びさんほうちゃんのことになると口を噤んでしまうもん吉くんは猪の妖魔に隙を与え、馬鍬を振られてしまいました。先程より致命的な場所にガツンと当たった所為が血だらけのもん吉くんはフラフラな足取りでその場に倒れてしまいます。
それを見兼ねたが太郎くんは猪の妖魔に突撃して武器である月牙を振りかざしました。
「先程から貴方は人の弱みに付け込んで、言葉巧に人を操っているだけですねっ!ぐぐっ…」
「ほぉ、だからなんだって言うの?」
互角に交じる二人は強い気を纏わせ戦っていました。そんな逞しい姿で精一杯戦うが太郎くんを見ているだけであったもん吉くん。
言葉に操られて簡単にやられてしまうだけ。こんな弱い心じゃさんほうちゃんを守ることなんか出来るわけないとさらに自分を卑下しました。
「うああっ!」
「が、が太郎さんっ!」
「へへっ、怪力八戒様に敵は無しだぜっ!」
考えている隙も無く。
唯一戦闘可能だったが太郎くんが飛ばされてしまい、猪の妖魔の瞳がすぐ捕らえたのはさんほうちゃんの姿でした。まだ立ち上がっているさんほうちゃんは一歩ずつ後退りながら猪の妖魔から離れていきます。
そんな危ない状況を見ているだけでしかないなんて、もん吉くんの心に何かが滾り気を荒ただせました。
「待ちやがれ、猪(イノコ)!」
「…?」
「お師匠様だけには指一本触れさせねぇ!もし触れたらお前、地獄行きだかんな。」
最後に余った力を振り絞り立ち上がったもん吉くんは左右バランスを崩しながら前進していました。
戦えるわけも無いこんな状況での勝ち目は明白です。さんほうちゃんは必死に声を張り上げもん吉くんを止めます。
「止めなさい!もん吉、言うことが聞けないのですかっ!」
「んっ、お師匠様っ、オレ…このあとっ、」
「ま、前!危ないっ!」
「くッ!」
後ろから馬鍬を振られたもん吉くんは体力を回復させたのか、素早く落とされた馬鍬を掴みました。ミシミシとなる節は簡単に折れ、使い物にならなくなってしまいます。
その力に驚いた猪の妖魔はすぐ武器を捨てると武術でもん吉くんに対抗しました。
「すごいね、もん吉くん。頭かち割られたのにまだまだ元気でっ!」
「は、そりゃな。実はこの後、お前倒したらお師匠様にご褒美もらえんだ。」
「へぇ…、報酬も貰えるんだ。それは嬉しい特典だね。」
勝手に話しを作っているもん吉くんですが、その時ばかりさんほうちゃんは寛大な心で猪の妖魔と戦うもん吉くんを見つめていました。
獲物を狩る鮮やかな翠色の瞳がキラキラと輝きさんほうちゃんの胸をドキドキさせます。こんな自分を命をかけて守ってくれる仲間が心強いと、改めて深く感じました。
[*Ret][Nex#]
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