new carat.
一枚いちまい、花弁を散らすように身に纏っていた服やネクタイを外して俺の前に佇む愛しい人。一糸まとわぬその美しい白い肌は俺がずっと、ずっと夢の中で思い描いていた通り。
指が触れたら壊れてしまいそうなぐらい、脆くて、儚くて、切ない色味を醸し出していた。
きっと、これは夢であって。
愛しさが溢れて。
愛しさが止め処無く溢れ過ぎて。
そのカラダを思い浮かべすぎて頭の中で現実との区別がつかなくなっているだけだろうと思ったが、確かにさっき口内の熱さと優しい舌を味わった。
「さくらばっ…」
「・・・。」
「くっ、」
俺が名前を呼んでも聞こえないフリをして、全てを脱ぎ捨てて恥ずかしそうに佇む桜庭。
"桜庭和希"
それが、俺の愛してる人。
桜庭は今年の四月にヨルヒフードの営業三課に入社して来たばかりの新人で、俺は上司であり教育係にあたる。
そんな桜庭は三人の新入社員の中で最も抜けていて最も頭が悪く仕事ができない。俺とは真逆、男のくせになよなよしていて女みたいな声をしている。もちろん要領も悪いため仕事が片付かず、深夜遅くまでオフィスに残っているのなんてほぼ毎日であった。
それでも桜庭は一生懸命であった。仕事が出来るからといってえばりくさるような奴らとは違う、純真で真面目だった。だから伸びしろもあるはずと正直、厳しく接していたし積極的に新しいことをたくさん教えた。
(浅井さんは…苦手だよ。だって毎日僕のこといじめて…それをある意味楽しみにしてるんだと思うよ。)
俺の期待を裏切りようロッカーから聞こえる桜庭の声。相手は同じ新入社員の村雨だろうか、うんうんと頷きながら桜庭の話を聞いている。
桜庭と村雨は背が低く見た目も女のように可愛い顔をしているため、課長からはとびっきり可愛がられている。そんな彼らがまさか俺のことを悪く言っているなんて…同じ職場で働くもの同士、嫌な気分がしたし、立ち聞きもいけない気がしていた。
(和希はさ、気にしすぎだよ。浅井さんだってきっと教育係だから仕方なく言ってるだけだと思うし。)
(もう嫌だな、浅井さんの前に座りたくない…)
その時は大して思わなかった。
はっきり感じたのは夜、夢の中に桜庭が現れた瞬間だった。
夢の中の桜庭は俺の寝室で、何故か裸で眠っていた。俺はその隣に居ておでこにかかる前髪を撫でながら無垢な寝顔を見つめている。桜庭は昼間と違って俺のことを好いていた。目を覚ますと小さな口が開き"おはよう"の声をもらす。
そして、目覚める。
それからと言うものの夢の中の桜庭は俺を愛していて俺も桜庭を愛するようになっていた。しかし、現実は真逆で桜庭は俺の瞳を見もしない。
「浅井さんの…浅井さんの好きにしてくださいっ、」
もし、今ここにいる彼がホンモノであるのなら俺はすぐにでも桜庭を抱き寄せめちゃめちゃにするだろう。でも、俺は桜庭に嫌われたくない。桜庭は俺の全てであるから、壊さないように優しく。
きっと二度と出来ないであろう感覚を俺は忘れないよう、胸に刻んだ。
[*Ret][Nex#]
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