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課外授業B



口に放出されたミルクを拭った青いハンカチを返しに職員室へ向かったボクは失礼しますと言って奥にある黒木先生の席を目指しました。

すると黒木先生は同じクラスの山本クンとにこやかに話していて、ボクは遠くからその内容を立ち聞きをしてしまいます。



「山本クンは足が早いから今度ひまわり小のバスケチームに体験入部してみないかい?」

「ええっ!ボクがですか?」

「ああ、山本クンには素質がある。脚は早いし動きが良い、頑張ればレギュラーになれると思うよ。」



山本クンの頭をなでなでしながらベタ褒めする黒木先生はすごい笑顔でバスケットボールの話をしていました。ボクにはそんなこと一言も言ってくれたことがありません。

山本クンに比べたら運動オンチかもしれないけど、あれはえこひいきです。胸がキュッと痛むのが分かりました。



「それじゃあ早速体育準備室に行こうか。バスケチームの体験入部申し込みをし、

「黒木せんせっ、あのっ…ハンカチ…ありがとうございました。ちゃんと洗って干したので匂いはしな、

「山本クン、一応お父さんやお母さんにも話をしなきゃね。ちょっと忙しくなるぞ!」



二人が歩きはじめたのと同時にボクは黒木先生に近付いてハンカチを返します。

何故ありがとうとお礼を言わなきゃいけないのか、その時はあまり考えていませんでしたがボクの顔も見ず何も言わずハンカチだけを引ったくって山本クンとどこかに行ってしまう黒木先生はあの時と全く別人でした。スポーツより何よりボクが好きと言ってくれた黒木先生は居ません。



「せんせぇ、な…なんで?」




ボクがわがままだから嫌いになってしまったのでしょうか?山本クンの方が顔がイケメンだからでしょうか?

何が起きたかよく分からないボクはチクチクするおっぱいをギュッと抑えながらお家に帰りました。









次の日の体育の授業は鬼ごっこで30人居るクラスに黒木先生が加わってすることになりました。準備運動の時も整列する時も必ず黒木先生と目が合っていたのに黒木先生は山本クンや高橋クンの方を見ていて全く合いません。

身長順で並ぶと男の子の中で1番ボクが前に来ます。それでも見てくれなくて、嫌われちゃったからなんだなと想いました。



「4人は10秒数えてから走りはじめろ!ほら、鬼さん以外はみんなダッシュだ!!」

「よし!花村、お前はブランコの方を追いかけろ!高橋は校舎裏、吉野はうさぎ小屋の方だ!俺は黒木先生が行った方に行く!」

「う、うん…わかった。」



ボクだって本当は黒木先生をタッチしてみたいのに、山本クンの命令で10秒後ブランコの方に駆けた子をタッチして行きました。

ブランコの方には女の子がいっぱい居てゴメンネと誤りながらどんどんタッチして仲間の鬼を増やします。



「いたるは早いなあ、さらに手分けしようぜ!」

「わ、分かった…」

「俺はサッカーゴールの方に行くから、いたるは体育館裏に行けよ!頑張ろうな、」



吉野クンと鬼ごっこの最中再会したボクはさらに仲間を増やすためまだ誰も見に行っていない体育館裏に行きました。体育館裏では黒木先生に変なことをされた記憶があって、嫌でもいろんなことを思い出してしまいます。

ゆっくり歩いていると体育館裏の大きな木、その前に立ち尽くしていたのはガッチリした大きな身体の黒木先生。ボクはこれはチャンスと音を立てないように進んでぼーっと立っている先生のお尻をタッチします。



「ターッチ!せんせ、つかまえた。」

「ッ!!」

「黒木せんせっ、鬼になっちゃったね!前はボクが捕まっちゃったけど、今日は違っ、

「花村クンっ…」



タッチされて振り向いた黒木先生は眉間にシワを寄せながら、どうしたらいいか考えた表情でしゃがみボクをギュッと抱きしめました。熱い身体の厚い身体はドキドキしてボクも何故かドキドキしてしまいます。

耳元で鼻を啜る音がして黒木先生は泣いているんだなと想いました。



「先生、なんで泣いてるの?捕まっちゃって悔しいの?」

「花村クン…、」

「ん、なぁに?」

「この世界には思っちゃいけないこと、口にしちゃいけないこと、やっちゃいけないこと、いろんなルールがあってすごく嫌になるね。」



いつもみたいに大きく野太い声じゃない弱々しい黒木先生はボクより少し身体も小さくなった感じます。

実際にそれはありえないことだけど、ぽつぽつと自分の気持ちを打ち明ける黒木先生には違った意味の覚悟がありました。



「花村クンとのお遊びは今日でおしまい。触ったり触られるのも最後。怖くて嫌な想いはしなくてすむよ、良かったね。」

「えっ、」

「でも体育館の倉庫で初めてチュウしたこと、この木でしたこと、先生は絶対に忘れないよ。だってスポーツより何より花村クンが大好きだから、」



真剣に見つめられたボクは鼻を真っ赤に涙を流す黒木先生のくっきりした顔を久しぶりに見ました。何でそんな寂しいことを言いながら大好きと言うのかボクはよく分かりません。

土に汚れた黒木先生は立ち上がると埃を掃って一人で校庭に向かいました。その後ろ姿を追いかけようにも言われた言葉があまりにも衝撃的でボクはただ立ち竦んでいただけでした。





[*Ret][Nex#]
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あきゅろす。
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