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secret bloom/Doll



道貴さんがドーフ・オークションで知り合った友達と食事に出かけたのは4時頃。

ボクはキッチンでクッキーを焼きながら、のんびり過ごしていた。もちろん、ご主人様の帰りを迎えなければいけないから、先に寝るわけにはいかない。

しかも、この時期は寒くて『お前の身体は湯たんぽ代わりに丁度良い』らしく。いつも二人寄り添って眠るのが日課になっている。



「奈緒さん、クッキーの良い匂いがしてますね。」

「藤村さんっ!あっ、そうだ…藤村さんも食べます?今、焼けたばかりなんですけど。」

「…いいんですか?」

「はいっ、どうぞっ!」



匂いにつられてキッチンにやってきたのはココの屋敷を仕切る使用人の藤村さん。

とても素敵な容姿で優しい人。実はこの人とは道貴さんへの気持ちに気付く前、身体を重ねた経験がある。
でも、今では道貴さんの見えない圧力により下火。
ちょっとまたいざこざがあったらボクも気まずくなっちゃうし、正直このぐらいの距離感が1番落ち着いている。



「ホカホカで焼きたてはおいしいですね。」

「ありがとうございます!」

「本当にそそりますよ。」

「はい?」

「いえ、何でも無いです。では私はこの辺で…クッキーありがとうございました。おやすみなさい。」



また意味深な発言をした藤村さん…
相変わらず、ボクらの関係はこんな感じ。
距離感も少しはあるけど、藤村さんの危険な香りは変わらないのであった。









道貴さんの帰りと聞いてボクは急いで玄関へ向かった。

メイドさんに紛れて整列をし、深く頭を下げればパッと見は分からない。



「奈緒、」

「お帰りなさい!」

「いきなりだがな。えぇっ、と…お前と同い年ぐらいでな、崎田臨と言う少年を知ってるか?」



最初、この服装について何かツッコミを入れられるかと思ったけど、道貴さんの口から臨の名前が出たことにボクは驚いて首を大きく縦に振っていた。

彼の安否は何も知らない。西大路道貴と言う男に買われた後、すぐ会場を出ていたし、誰が臨を買ったなんてことも知らない。
忘れていたようで気になっていた彼のことをボクはドキドキしながら聞いた。



「崎田君は【五百雀 景至】(イオサキ ケイシ)と言う関西一の厄介者に買われてな。今は『マーガレット』っと名乗る男娼業で儲けている店でボーイとして働いているらしいぞ。」

「…えっ、」

「気の毒に。きっと毎晩3人以上の客とは性交してるであろうな…」



俯きながら話す道貴さんを見つめながらボクは泣きそうになった。

彼が、あんなに真っすぐで明るくて優しい彼がそんな人に買われてそんな低俗なところで働いているなんて考えたくもなかった。



「来週辺り…一緒に大阪へ行こうか、奈緒。」

「道貴さん、?」

「崎田君に会いに行こう。私は面識が無いが、彼はきっと奈緒を見たら喜ぶに違いない。」



道貴さんはボクだけのことじゃなくて臨のことも考えてくれていた。

未来を知っていたボクらは幸せになれないと分かっていた。だけど、こんな不公平な話しは無い。

だから臨に会って、その五百雀とか言う奴から臨を引き離す勢いで居た。



「奈緒っ、」

「はいっ!」

「それにしても…お前、その格好。私を誘っているのか?」



とんで話はボクの服装のことに。どうやらメイド服を着ていたボクに違和感を感じたみたいだ!

これは、狙い通りだぞ!



「だって…キッチンに入るのはコレ着なきゃダメって、」

「奈緒…」

「はいっ、道貴さんっ!」

「と、とりあえず風呂に入らせてくれ。崎田君の話もお前のその格好もその後だ。」



顔を赤らめピューッとお風呂場へ向かってしまった可愛い道貴さん。

ボクは作成成功!とウキウキしながら想いつつも、脳裏には臨の笑顔が焼き付いて離れなかった。





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