◆
その発言に誰がお前なんか、と思ったボクはふらつく身体を起こして部屋を後にした。
駆け足で逃げるボクを見た東雲社長は高らかに笑いながらまた来てねとバカにしたよう手を振る。
五百雀氏もこんな人間相手によく頭が下げられるもんだ。人を道具扱いにして、飽きたら捨てる。こんなの人間がすることじゃない。
「もしもし、オーナー。俺、このお客さんとは相性が合わないみたいです。今日は帰れと言われたので迎えに来てもらえますか?」
『なぁんっ、ダメよ。今日は3時間くらいて東雲社長から言われたんやもん。 』
「はい?」
『相性云々、全く気にせん。東雲社長はオールマイティな人みたいやからね。嘘もバレバレよ…』
ぷつりと切られた電話に苛立ったボクは何も無しにその場を去ろうとした。
もちろんマーガレットに帰る気も無い。どうにでもなれと諦めを感じながら外に飛び出した。
『何も無いっ!キタノクンが居ない世界なんか、キタノクンが居ない未来なんかっ、何も無いっ!!』
『一人でいるのは寂しい。けど、今はキタノクンと一緒にいるからすっごく幸せだ。』
『キタノクンが願うなら消える、消えるから…、まだ少し…もう少しだけこのままでいさせて。』
ぽつり。
いつも一人になると思い出すのはボクと居る幸せを語る『黒薔薇』の言葉。
奴は根っからのアホだった。後先も考えず、簡単に自分の気持ちを伝えて、簡単にボクを攫って、簡単に居なくなって。気が付けば、ボクの胸中にはアイツの影しか残らなかった。
「五百雀さん、怒っていたでしょ?」
「・・・。」
「言うこと聞いてくれる気になった?」
立ち止まった出入り口で東雲社長に手を引かれたボクは大人しく頷いて社長室に戻った。
ふと『黒薔薇』を思い出すたびに哀しくなるのは何故だろう。いつも声だけ、顔はぐしゃぐしゃで覚えていなくて。だけどその、無駄に優しい低い声を思い出すたびに惨めな想いをしてしまうのは何故だろう。
「本番は挨拶と一緒だから。緊張せず、リラックスして僕を受け入れよう。」
「はい、」
「ふっ…大分物分かりがいいね。さっきの態度はどこへやら…まぁ、いい。時間が無いから早くしよう。」
あの時間が恐ろしかったから、逆に今が恐ろしいからか。
答えは分からないけど、東雲社長の言うことを聞けば楽になれる気がした。
◆
ボクの目の前で【ソウ】という名の青い首輪をした少年がお手本に東雲社長の腰に跨がる。
イヲリだけだと思っていたけど、ソウも巧妙な手つきで東雲社長のペニスをアナルに受け入れていた。
「んっ!ああ、ぅうっ!」
「ソウ、もっと腰を上げて。慣れてきたらキスしなさい。」
「はっ、はいっ…」
入った瞬間、がくがくと小刻みに震える細い身体。拙い表情と何かを必死に探しているよう彷徨う手。
その指先が東雲社長の左頬にちょんと触れると、下から込み上げる熱に耐えながらソウは東雲社長の淡い唇にかぶりついた。
「んふぅっ、れーじさんっ…」
「くっ、ソウ…お前は本当にいい子だね。最初の規約通り、無感情に動いている。」
「はいっ、ありがとうございます…」
ぐんぐんと湧く東雲社長のペニスに突かれるソウは身体を震わせながらも東雲社長の両肩にしっかりしがみついて、律動に耐えていた。
そんなこと、ボクにも出来るのだろうか。いや、やらなければいけないんだ。
一歩踏み出したボクは『黒薔薇』との過去を思い出しながら、拳を握りしめ二人の中に割って入って行った。
[*Ret][Nex#]
無料HPエムペ!