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『離せッ、このクソッ!ああああっ!!!なんでっ!なんで俺がこんな哀しい想いしなきゃいけねぇんだよ!なぁ、サツおらぁっ!俺が誰だか分かってんのか?えぇ?』

『――、お前が誰であろうとこれは歴とした犯罪だ。罪を認めろ。』

『黙れッ!キタノクンは俺のものだっ!好きなんだ、ホントに好きだから絶対誰にも渡さない!ッ、手錠を外せッ!』

『終わりだ、――!全て終わりなんだよッ!』

『嫌だぁあっ!嫌だああッ!やだやだやだああっ!!!!!!!!!!!!』



恐ろしい日々の終焉。

それは薄れる意識の中、聞いてしまった誘拐犯と警察官のやり取り。ボクは駆け付けた警察官に介抱され、暖かい毛布に剥きだしのカラダを包まれて救急車へ乗せられた。

何日ぶりか狭い部屋からの脱出、久しぶりに見る空の蒼。血走る紅い瞳と罵声を浴びせ、浮き上がる太い首の血管。

無理矢理記憶の断片を拾い上げてもボクは奴の顔を思い出すことができない。
思い出そうとすればするほど頭の奥がズキズキ痛む。そして、痛みを感じた後に必ず思い出すのは『色の無い、寂しい黒薔薇が一輪描かれた』あの肌だ。



「おっ!サキちゃん、到着したでー!」

「・・・。」

「ッホンマに君は落ちついてるね。全部知りたい言うて酷いこと言ったのに動揺もせんし。もしかして男とエッチしたことあるんか?」



何も分かっていないはずの五百雀氏は明るめの口調で核心を突いた。それは確かに事実だが。

少し驚きつつ、決して頷いてはいけないとボクは冷静に『いいえ、』と返事をする。



「じゃあ、初体験はオレがもらおうかな。」

「・・・。」

「ふふふっ。んな、冗談や!そんな真剣な顔ばっかせんといてな。お客さん、すぐ逃げてしまうから。」



あははと笑顔で話す無神経さと明るさは黒薔薇と似てて、どうしても重ねて見てしまう自分に腑が落ちない。

でも、この人に着いていくしか今は道が無いから…
誰からも好かれなかった自分を必死に守ろうと思った。









オークションで出会った彼は幸せで居るだろうか。大阪に着いた時、ボクは遠く離れた『初めての親友』を思い出した。

彼はボクと違ってこの歪んだ世界を知らない、本当に純粋な人だった。何を言っても分からない、本物の人間であった。そんな彼が引き込まれた世界もきっと黒く、先が見えないであろうとボクは自分の未来よりも批難していた。



「ここが君の働く店や。」

「はい、」

「改めまして、私がマーガレットのオーナー五百雀です。よろしく。」



働くと紹介された『マーガレット』と言う店はいかにもいかがわしい建物としてそこに佇んでいた。

教えてもらった仕事内容は主に二つ。

一つは来店するお客さんの相手をすること。それは水商売のようなもので、話し相手からオーラルの相手まで幅広い。

もう一つは出張サービスをするということ。それは普段、店に来ない客から指名を受けてセックスの相手をするそれだけのこと。

どちらにしろ低俗な内容だが、ボクは何も文句を言わず五百雀氏の言うことに従った。



「衣装もちゃんと決まってるから、出張サービスじゃなくて店内に居るときはこれ着てな。」

「はい、」

「うんうん、サキちゃんは物分かりが良くてホンマに楽や。今度、営業成績が良かったらいっぺんごちそうしたるからな。」



物分かりがいいも何も、何をするかぐらいは分かっている。しかも相手は複数。それ以外の感情も何もいらないならかえって気が楽な気がする。

ボクは渡された仮装の服を適当に放り投げ、寝室になっている店の奥へ向かっていった。





[*Ret][Nex#]

あきゅろす。
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