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帰れる場所が無いボクが戻ったのはやはり五百雀氏の元であった。マーガレットのボーイの衣装チェックしていた五百雀氏は真剣な眼差しで選別し、誰が何を着るか決めている。
でもそれどころじゃないボクは急いで五百雀氏に駆け寄り単刀直入に尋ねた。
「オーナー!何で犯罪者がボクの客なんですか?」
「なっ…!いきなりどうしてん?サキちゃん、」
「13年前のひまわり町の男子小学生誘拐事件!知ってますか?あれ、あれの犯人がどうして…」
「はぁ?」
首を傾げながら苦笑いをした五百雀氏は何がなんだかさっぱり分からないとボクに落ち着けと席に着くよう促した。
あの名札を持っているということは決まって黒薔薇なわけで、せっかく仲良くなって何でも言える…こんな汚い世界でも信じることの出来る唯一の人間がまさかあの黒薔薇なんて信じられなくて頭が破裂してしまいそうだった。
「あん時の子供…」
「えっ…?」
「…なぁんて最初から分かってたけどなぁ。」
目の色をスッと変えた五百雀氏はボクの胸元をじっくり見つめると息を飲み早急に唇を奪ってきた。
クチクチとエッチな音が暗い控室に鳴り響きどんどん烈しさを増していく。どうやら五百雀氏はボクなんかに、自分の商品であるボクに欲情しているようだ。
「っ、…サキちゃんっ、」
「や、オーナー…ッ、」
「キミは初めから騙されとったんや。でもキミが何を言おうと戻ろうともう無理やからね、」
全く何を考えているのか分からない五百雀氏にそのまま組み敷かれたボクはドンと思い切り落ちてしりもちを付いた。
まさかあの五百雀氏が商売道具に手を出すなんて。五百雀氏の軽いノリからは今想像つかないほど在る姿は強引で意地悪だ。
「だっ、オーナー…ダメですっ、オレッ…」
「黒薔薇か何だか知らんけど…サキちゃん、過去なんて忘れて未来を見つめた方がえぇで?」
「ちがっ、やだっ…」
「なぁんっ、大丈夫。すっごくエッチなんやろ?当時いっぱい書かれてたんやで。エッチな小学生男子と20代、無職男の監禁セックスって見出しでな、」
そんなこと、
何も知らないボクは羽交い締めにされ乱暴に服を剥ぎ取られる。確かに五百雀氏の言う通り監禁も小学生男子も奴が無職で20歳過ぎなのも言葉としては間違いではない。
でも、ただの監禁とはレベルが違う。ただセックスしただけの関係とは全く違う。
「そりゃショッキングなニュースやったのに親戚が富豪で揉み消されてな。今犯人は何しとるんかな…って思ったらなぁ、」
「やだっ…」
「まさかあの、」
「失礼します。五百雀さ…、」
何か重要な言葉を言いかけた五百雀氏を遮り突然部屋に入って来たのはイーストクラウドの社長、東雲玲二だった。ボクが上半身裸で組み敷かれているのをまじまじと見ている彼は受容が早くやはり顔色一つ変えない。
お取り込み中失礼しましたというように無言で去ろうとする東雲社長を大声で引き戻したのは良いところ邪魔された五百雀氏だった。
「いきなり登場、シラフジさん!」
「・・・、っ!」
「元の名前で呼んだらエライ驚きまんなぁ、白藤玲二さん。」
「・・・。」
「シラフジ、?」
五百雀氏が放った言葉でボクは脳裏に“黒薔薇”の顔を思い浮かべた。
そして黒薔薇の全てがリフレイン。声も、名前も、愛情も。優しかったことも、変態だったことも、ボクだけ好きでいてくれたことも、ボクを必要としてくれていたことも。全部全部、ハッキリ思い出してしまった。
[*Ret][Nex#]
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