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2週間が過ぎてこのライフサイクルにもやっと慣れた。週3回、午前中に東雲社長の相手をしながら午後は毎日いろんな客の股間を弄ってお金をもらう。

非道徳的なこの生活がボクにはピッタリなのかもしれないと酔い始めた頃だ。



「こんにちは。」

「・・・。」

「と、冬弥さん?」



今日も決まって冬弥さんの家に同伴に向かったボクは合鍵を用いて机に向かう冬弥さんに挨拶をした。

冬弥さんとはセックス無くともラブラブで本当に良くしてくれる良い間柄。昨日はいっぱい東雲社長に弄られて毎度二度と来るもんかと思うのだが、冬弥さんとそのあと会えると考えれば楽しくなっていた。


手にペンを持ったまま俯いている冬弥さんから返事はない。



「あ、あのっ…冬弥さん?」

「・・・。」

「崎田です。今日も同伴よろしくお願いします…」



近付いても何も言ってくれない冬弥さんは書類を下敷きに眠っているようだった。赤いインクを右肘につけて、ティーカップも落ちそうなところギリギリに置いてある。

零れたら危ないので机上にあるものを退けようとして茶封筒を引き出したらぽとりと何かが床に落ちてボクは心臓が潰れてしまいそうなくらい驚愕した。



 市立ひまわり北小学校
 1年2組
    きたの ゛



そう、あれは確か雨の日だった。両親が死んで親戚の家に引き取られたボクは引っ越したばかりで友達が居なかった。

だから帰り道、一人ぼーっと歩いていて思い切り転んだんだ。あの時、雨に濡れて滲んだ名札が確か。ひらがなでかかれた名前が溶けて「さきたのぞむ」の間の三文字「きたの ゛」だけ残したままだった。

状況が全く理解出来ずにいろんな声が、温もりが全身に食らいつく。



『好き、キタノくんっ…』

『おにぃーさん、ぼぉくはキタノじゃ

『じゃあ俺も…お兄さんじゃないよ。ちゃんと名前がある、俺は・・・・・』



頭がガンガン痛いのに頭の中の黒薔薇がボクを見ている。口元の動きは全く思い出せないけど無駄に優しい笑顔で、はだかんぼうのボクを見ている。

現実には目覚めた冬弥さんがボクを見ている。同じような無駄に優しい笑顔で。何も無いボクを見ている。


「サキちゃん?」

「く、くろばらっ…」

「えっ、」

「なんでっ…なんで貴方がコレをっ、」



戦慄く身体を押さえても悪寒は全く治まらない。むしろジワジワ冷たくなって何度も言われた愛を思い出すばかり。

まさかこんな近くに居たなんて、いや…たまたまかもしれない全部わからない。


「やだっ…」

「サ、…サキちゃん?」

「俺は…俺はキタノじゃないっ、お兄さんっ…ボクは…ボクは、」

「キ…、キタノくん?」



今更だけど黒い瞳がよく似てる。髪型や髪色は違うけど、整った鼻筋や男らしい輪郭、薄い唇だってそっくりだ。

声だってきっと。
罵声を聞けばきっと一緒だ。だって本人だろうから。



「サキちゃんがキタノくん?」

「違う。」

「えっ…、でもこれ見て、」

「違う!違う!嫌だ!黒薔薇、黒薔薇が…」

「覚えてるの?ねぇ、サキちゃん!それ、詳しく教えてよ!」



近寄ってきた冬弥さんが恐ろしく差し延べられた手を振りきってボクは猛ダッシュで街へ駆け抜ける。

戻れる場所なんて無いけど整理出来ないほどグシャグシャになった頭を抱えボクは叫んでいた。





[*Ret][Nex#]

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