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指輪を返したボクは駅までの道のりをのんびり歩きながら伯父さんとの長い時間を思い出していました。
伯父さんは精一杯ボクを愛してくれています。だけど今は少しだけ時間が欲しい、ただそれだけなのです。もちろん大切な人が出来たなんて嘘っぱちです。伯父さん以上に好きな人なんか出来るわけ無いのです。
今のボクに必要なのは本当のことを両親に打ち明ける勇気と伯父さんとずっと一緒に居る未来だけです。
「パパ、ママ、」
「おかえりっ、」
「あのね、今日は二人に大切なお話があるんだ。」
伯父さんの家から真っすぐ家に帰り、着いたのは夜7時過ぎ。パパもママも居る部屋でボクは将来についてお話することに決めました。
実は昨年から社会人として自立したボク。そろそろ一人暮らしもしてみたいなとも考えていました。
「ボク、来月からココを離れて恭臣伯父さんと一緒に…暮らしたいと思っているんだ。」
「・・・。」
「そ、そうか…」
「うん、」
腕を組みながらうぅんと悩むパパは少し分かってくれそうです。が、ボクと伯父さんの所為で精神的に不安定になってしまったママは黙ったまま。
あの光景を見ているママはその日以降お兄さんである伯父さんの名前は一切会話に出しませんでした。
「お兄ちゃんはね…フランス出張中もずっと、ずっとつばさを思っていたの。」
「え、?」
「突然、電話してきてね。必ずつばさの様子を聞くの。風邪をひいたって本当のことを話した時は大変だったわ、」
柔らかい笑顔で伯父さんのことを話すママを見るのは何年ぶりでしょう。
溌剌とした表情で伯父さんとの思い出を語るママは明るい声で話しを続けました。
「お仕事が忙しくて休む暇も無いのに休日は必ず貴方を遊びに誘っていたわ。箱根の時も二人きりになれることを子供みたいに喜んでね…、普通の人とは違う形でもお兄ちゃんはつばさが大好きなのよね。」
「…ママ、」
「いい加減認めなきゃって思っていたの。もう大人だしいいのよ?パパとママのことは気にしないで自由に生きなさい。」
隣で大きく頷いてくれたパパと初めてボクらを許してくれたママ。
優しい二人に見守られているボクは幼い頃の誕生日みたいに暖かくとっても幸せな気持ちになれました。
◆
2月25日、伯父さんの家へ向かうと伯父さんは不在でボクは玄関前でひとり待ちぼうけ。家から運んできたキャリーバックに寄り掛かりながら眠って待ちました。
伯父さんはとっても真面目な人なのできちんとしています。ですからボクに大切な人が出来たこともきっと鵜呑みにしてしまっているはずです。
「つばさ?」
「あ、おじさ、
「どうしてここにいるの?もう会わない約束だよね?」
ボクの顔を見た瞬間、ぴくりと引き攣った伯父さんの左目。少し棘のある話し方で何故ここに居るか聞かれました。
そんな伯父さんとは逆にボクはにっこり笑って大きな荷物を指差します。
「恭臣さんっ、」
「つばさ、これはどういう…」
「言ったでしょ?絶対幸せになりますって、」
何だか不味い顔をした伯父さんは口を手で塞ぎ、小さな声で『ホント?』と言いました。
先程痙り上がっていた目は瞬く間にとろけて穏やかな顔になります。やっぱりいくつ歳をとっても伯父さんはかっこよく素敵です。
「つばさは伯父さんを騙すのが得意なんだね。」
「えへへっ、」
「つ、ば、さ!えへへっじゃないよ?俺、すごく怒ってるんだよ?」
ちょっぴり怒った伯父さんの言う通り。騙したボクが悪いのでペコッと頭を下げてごめんなさいをします。
それを見た伯父さんは仕方ないなと呆れながらボクの大きな荷物を運び、新しく住むお家に入れてくれました。
[*Ret][Nex#]
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