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会える確証は無いけれど、ボクが飛び出して向かった先は夜の海岸です。その時間は伯父さんの言った『未来の地平線』があまり見えなくて、ボクはホッとします。

逆に夕暮れは嫌いです。
伯父さんの言った『未来の地平線』がキラキラ輝いてくっきり瞳に焼き付けます。それは心を抉る生々しさでボクの現実に食らいつきます。



(―君は、幸せだろうか。)

「えっ?」

「・・・。」



不意に聞こえた低い音は波と消え、ボクは南の方向に立つ人を見ました。今日という一日はとってもおかしいです。

さらりとした短い黒髪、長いシルエット、綺麗に整った顔もボクはこの場所で見たことがあります。

その人は握りこぶしに向かってボソボソと何かを呟き、震える身体を自分で抱きしめていました。



「…恭臣おじさんっ、」

「・・・。」

「おじさんっ!恭臣おじさんっ!!」



ボクは波に負けないよう歩きにくい砂の上を走りながらその人の名前を呼びました。全く気づいていない伯父さんは遠くを見つめ、震えています。

その姿に一歩でも早く近づきたくて、一生懸命走ります。二度と離れたくありません。もう一度ボクの姿を瞳に映して欲しいです。



「恭臣おじさん。」

「…つ、つばさ?」

「はい!おじさんッ、やっと会えたっ…恭臣おじさんっ!」



走って追いついた先に久々に見た伯父さんの顔はあの頃とあまり変わらず、綺麗な顔も大好きな瞳もそこにきちんと残されていました。

懐かしい声で呼ばれた名に嬉しくて子供のように明るい返事をします。

しかし、笑顔のボクとは逆にどんどん青ざめていく伯父さんの顔は今まで見たことの無いぐらい恐ろしく弱った顔でした。



「つばさ。あぁ、そっ…そうか、そうだよな。俺を、おれを、こっ…殺しに来たんだな。」

「えっ?」

「早くしなさい。俺を殺して、俺を殺せばつばさは…つばさは幸せになれ

「何で、何でおじさんっ!違うよっ…殺しになんかっ、ボクがおじさんを殺しになんか来るわけないじゃないかっ!」



憔悴しきった伯父さんは悶絶した瞳で久しぶりにボクを映しました。

死ねばいいと思っている伯父さんは今までのことを全て水に流すつもりで居るのでしょうか。
そんなことしても報われないのに、3年経った今も尚ボクを愛した気持ちを揉み消そうと考えているのでしょうか。



「じゃあどうすればいい…どうすれば俺の罪は消える?小さい時からずっと酷いことをしていた俺を誰が許すんだ?」

「おじさんっ、」

「・・・。」

「おじさんはボクのこと、今でも好きですか?」



その声は、想いは。
はっきり伝わったでしょうか。

伯父さんは瞳を反らして波打つ海に視線を落とします。ボクの声は届いたけど、答える気は無いみたいです。

固まったまま拳を握り、小刻みに震えています。

すると左の拳。
キラリと光るものがボクの瞳に映りました。



「おじさん…その指、」

「・・・。」

「それ、翼の指輪?」



夜の闇に光る銀色は紛れもなく永遠を誓った翼の指輪で、かつてボクも付けていたものでした。

だけど、最後のお別れの日にそれは外されてボクの手にはありません。それでも伯父さんの左手薬指には絶えずそれが輝いていました。



「そうか…つばさは伯父さんとのセックスが大好きだったもんな。また会えば気持ちいいことが出来ると思ったのか?」

「おじさんっ…」

「すまないが伯父さんはもうそういう趣味は無いんだ。歳も今年で45になる…あの頃は若かったからな。衝動的に相手を間違えたのだろう、それだけだ。」



放つ言葉と指輪の意味が矛盾している伯父さんはボクの顔をちらりと見ただけでその場から離れようとしました。

もうボクを愛す気力も無いということでしょうか。

その言葉通り以前からそんな気持ちは無くてつい、うっかり手を出してしまったのでしょうか。

それでもボクの胸はドクドクと脈を打ち、息尽くことはありません。

ずっと思っていた伯父さんへ、気持ちを伝えるのは今しか無いとはっきり感じました。





[*Ret][Nex#]

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