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心にはぽっかり大きな穴が空いたまま今年も寒いこの季節。

恭臣伯父さんに貰った『夢が叶う砂の瓶詰』・『幸せになれるお菓子の瓶詰』はママの狂乱した日と共に割れて消えてしまいました。
あの日からボクの気持ちは益々膨れ上がり、胸を痛く締め付けました。

ボクは伯父さんが大好きです。嫌だった日々が嘘のように、伯父さんの声も身体の熱さもボクの心を焦がしています。

気付くのが遅かったからといって、決して結ばれないボクら。思い返しても、悪いことをしていたとは思えません。一体何がいけなかったのでしょうか。



休日は伯父さんと行った海に一人で来ます。

運転免許を取得したボクはバイクで友達とツーリングをしたり、今はのんびり過ごしています。



『…つばさと、ずっと一緒に居たい。本当はそう思っているんだ。』



幼い頃の誕生日。
確か伯父さんに初めてキスをされた日のことです。

今思えばそれが伯父さんの本心だったのかもしれません。

伯父さんは情事が終わると子供みたいに無邪気な笑顔でボクと居る夢をたくさん語っていました。

つばさと温泉巡りをしたい。

つばさといろんなところの美味しいものをたくさん食べたい。

海沿いの道を車で駆けてドライブしたい。

そして、ずっと一緒に居たい。



身体を重ねるだけでなく、平穏に二人で居る未来。きっと伯父さんはそう願っていたのでしょう。



(つばさ、)

「えっ…」

(3年も一人にしてすまなかったね。また俺と一緒に居てくれるかい?)



叶わない、空想の伯父さんはボクを包んで離しません。

その薄っぺらな温もりに身を任せボクはこの海に叫びます。

今回で何度目でしょう。
何度もこの地に来てボクは伯父さんの名前を叫びました。









ママは言葉を話せるようになって、体調も良く今はお家に戻ってきました。

あの日以降、瞳に光りを失ったママは一年間、ボクを見つめてはくれませんでした。だけど、病院に通って先生と心のカウンセリングをしながらママは徐々によくなりました。

今はお裁縫が趣味で、得意のお料理もするようになりました。



「つばさ、」

「ん、なぁに?」

「あのね、今日はサラダ作るから。きゅうりとレタスを買ってきてほしいの。」



今ではお使いも頼まれる仲に元通り。

もちろん伯父さんの名前も、思い出も話題にはあがりません。



「分かった。テクノスーパーでいいよね?」

「うん。」

「了解、行ってきます。」



今は卒業前の家庭研修期間で、ボクは一日お家に居ます。卒業式までずっと居ます。

もう大学も決まっているので、変なことをしなければ卒業出来ます。

ママのフォローは全般ボクがします。ボクの所為でこうなってしまったのですから、面倒と思ったことはありません。



(今日はヨルヒフードの新商品、スピンスマッシュの試飲会です。テクノスーパーにお立ち寄りの際は是非お越しくださいませ!)



スーパーに寄るとスーツを来た人の中にパパの姿を見つけました。

ヨルヒフードと書かれた段ボールを担いで頑張っているパパは社員の人と親しげに話しています。

まさかこんな時間にボクが居るとは思っていないであろうパパをビックリさせるためにゆっくり近くに行きました。



(みんな、常務の朝比奈さんだぞ。)

(こんにちは!お疲れ様です、朝比奈常務!)



刹那、歩くスピードをゆるめたボクはその瞳にはっきり影を映しました。

さらりとした黒髪に優しい瞳。すらっ長い身形に青色のネクタイとスーツでビシッと決めた男性。崇められるように外から来たヒトはボクがずっと探していた人でした。



(企画課の皆、お疲れ様。常務取締の朝比奈 恭臣です。今日は新商品の発売と言うことでフランスから足を運ばさせてもらいました。この商品はヨルヒブランドの代表として需要を上げてもらいたい商品です。張り切って売っていきましょう。)



声のトーンや話し方も変わらず、遠くに佇む伯父さんを見つめるボク。

あまりにも急な出来事にどうしたらいいか分からず、震えた身体でその場に立ち尽くしていました。





[*Ret][Nex#]

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