tear feather
冷たいガラスに、透明な露がいくつも張り付く哀しい季節になりました。
こうして届かない手紙を書くのは、今年で三回目ですね。
恭臣(ヤスオミ)伯父さん、お元気ですか?
ボクは来年通う大学が決まって、今は運転免許を取る為に教習所へ通い始めました。
友人もボクもバイク狙いで高校の授業より頑張って勉強しています。
そこへは片道20分かけて自転車で行くのですが、寒くてコート無しでは外にも出られません。今年は暖冬と言われていましたが、此処は変わらず寒いです。
アノ時の事はお母さんももうすっかり記憶の底、話題に上がる事は無くなりました。
三年前は食事も喉を通らなくて大変でしたが、最近は体調も良好で病院に通う頻度も月一回減りました。
小学生だった妹の小羽(コハネ)は中学生に、お父さんは変わらずヨルヒフードに勤めていて、ボクも含めて家族4人元気に暮らしています。
お母さんのお兄さんにあたる貴方は、この季節になると決まってボクにお菓子の入った可愛い瓶詰をくれましたね。そして、その数ヶ月後の誕生日になれば電車のおもちゃやヒーローのブレスレット、5歳になったあの日にはボクにキスをくれましたね。
三回目の今年もまた、ボクの想いを伯父さんに伝えておかなければいけません。
ボクはあの瞬間、貴方との時が止まって張り裂けそうな想いを切り裂き、一生孤独になりました。
そこで誰が悪いと、貴方を、第三者を咎めているつもりはありません。
だけど、他に方法は無かったのでしょうか?
嘘を並べて、何年もボクを慰めて貴方は楽しかったですか?
指、脚、頭、耳、胸、心。
カラダ全部、伯父さん。
どうして、離れません。
そんなこと、大声で叫んだらみんな傷ついてしまうから、貴方にだけ伝えます。
貴方に捧げて、焼き尽くされた身体と心。10年分。
ありがとう、伯父さん。
僕を壊してくれて。
僕を抱きしめてくれて。
僕を愛してくれて。
僕を永遠に一人にしてくれて。
ありがとう…
Wing...
翼が砕けた。
ボクに張り付く深い傷痕―
11月、ママのお誕生会。
ヨーロッパから帰ってきたママのお兄さん【朝比奈 恭臣】(アサヒナ ヤスオミ)おじさんが大きな荷物を持って初めてお家にやってきました。
これは本場のクリスマスツリーだと、飾り付きのツリーをひとつ。ママのお腹に居る赤ちゃんと君へのプレゼントだ、と言って頭をなでなでされました。
「お名前、言えるかな。」
「さとなかつばさっ、」
「いいこだ、ちゃんとお名前言えるんだね。」
初めて会った優しい恭臣伯父さんはママにヨーロッパのお土産と、誕生日プレゼントを渡してすぐ帰ってしまいました。
ママは『伯父さんは忙しい人なのよ』とボクに言いました。だけど、ボクはそう想いませんでした。
何故なら、初めて会った日から伯父さんはボクの家に来るようになったからです。
「…つばさ、」
「あぁっ!やすおみおじしゃん、こんにちは!」
「こんにちは、つばさ。今日も一日、楽しかったかい?」
そうして毎日お家に伯父さんが来るようになったことをママに言ったら、『ママがおじさんにお願いしたのよ』と言われました。
伯父さんはママのお兄さんで、ツリーをくれた優しい人です。だから怪しい人とは絶対に思いません。
「つばさ。お母さんが帰ってくる前に伯父さんとお風呂に入ろうか。」
「うんっ!」
ボクは伯父さんに手を引かれてお風呂場に行きました。
シャツをしゅばっと脱ぐ伯父さんをマネしてボクもぬぎぬぎします。
そのボクの姿を嬉しそうに眺める伯父さんをおかしいとも、気持ち悪いともその時は何も思いませんでした。
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