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楽しい夢を見てボクは眠りから覚めた。
夢の中でボクは家族と一緒に公園でお弁当を食べながら語らいをしていた。

父さんも母さんも、会社が無くなる以前の様に溌剌とした表情で。3個上の里緒ちゃんと1個上の美緒ちゃんも変わらず元気そうで。
半年前の明るい日常を思い出させた。



「奈緒さん…」

「藤村さん、ごめんなさい。ボク、いきなり倒れてしま・・・」



ギュッと手首が閉められていて血が止まっているような違和感。

自分の身体が異常だと言う事に気付いて、思わず喋るのを止めてしまった。


外は明るい太陽の陽が差していて、明らかボクの嫌いな夜じゃない。

なのに、ボクのこの格好はなんだ?
後ろ手に手首を革の紐できつく縛られた身形。


そして、目の前に居るのは主ではない。主の使用人、藤村智章さんだ。
彼は何も知らない様な顔で怪訝に僕を見つめていた。



「奈緒さん。」

「コレ…何ですか?御主人様の御命ですか?」

「・・・。」



冷静に、おかしな姿で藤村さんに問いかけても彼は答えてくれなかった。

優しいキャラクターで素敵な彼はボクの唯一の拠り所。
だから、こんなことをする人だとは思わないし、一ミリも疑いを持たなかった。


藤村さんがボクに酷い事するはずない。
もし、彼がしたとしてもきっと、西大路氏からの命を受けて仕方なくやったことだろう。



「あのっ、腕が痛いので外してもらえませんか?」

「嫌です。」

「藤村さん・・・?」



主人の命だと聞いた時は答えてくれなかったのに、縄を外してとお願いしたらすぐ拒絶されてしまった。

きっぱり断った低い声は西大路氏と同じぐらいボクに威圧感を与える。
いつもの藤村さんではないとだけ感じた。



「奈緒さん・・・一週間。貴方が来て一週間経ちましたが、私はもう耐えられません。」

「な、何を?えっ?ちょっと意味がわから
「奈緒さんが…大切な貴方が酷く傷付く姿を、私はもう見ていられません。」



その瞬間、答える間も無く藤村さんに抱きしめられた。
すーっと耳元で聞こえる落ち着いた息遣いに胸がドキドキ。
予想外の告白に自身言い表せない気持ちになっていた。



「なおっ、さん…」

「ふじっ…むらさん?」

「どうして・・・どうしてこんなに切ないのでしょう。」



ボクをきつく抱きしめたまま想いを口にした藤村さん。

不思議と嫌じゃない…寧ろ嬉しい彼の気持ちに胸が傷んだ。



「オークション会場で貴方を選んだのは私です。道貴様に『気に入ったモノがあれば言え。』と言われ私が貴方を指名しました。」



案の定。
最初から西大路氏はボクに好意なんてなかったんだ。

だからいつも冷たく、買ってしまったから仕方なく、金を出してボクを抱くのか。
飽きたらきっと簡単に捨てられるのだろうな…

見えなかった西大路氏の胸中が少し分かった気がした。



「初めは貴方を使用人として迎えるはずでした。しかし、道貴様の気紛れで貴方は・・・。全て私の所為です。」

「“気紛れ”ですか…」

「奈緒さん、本当にすいませんでした。」



自責した藤村さんは拘束していた縄を解き、ボクの頭を撫でた。


今ボクが居るのは西大路氏と何度も繋がった悪夢を呼び覚ます悍ましい部屋。
気分的にはよろしくないけど、目の前にはこんなボクを大切にしてくれる藤村さんがいる。

久しぶりにヒトから貰った愛に懐かしみを感じ、ボクは優しい手を握り返していた。





[*Ret][Nex#]

あきゅろす。
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