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支給されるご飯もおいしくて、運動場、大浴場、カラオケボックスなどの施設も充分。

これから起こることを予期できないほど牢屋暮らしの3日間はとても充実していて、今よりは断然良い暮らしが出来ていたと思う。

初日に出会って、おかしな事を言っていた青年の名は【崎田 臨】(サキタ ノゾム)

一個上の彼はボクよりやんちゃで明るい性格。
オークション当日まで彼とは家族の話や、好きなゲームの話で盛り上がった。



「奈緒・・・離れても親友だよな、俺たち。」

「もちろん!雇われたら精一杯お仕えできるように頑張ろう!絶対また会おうね。」



苦笑いする臨に陳腐な笑みを見せる無神経なボク。
握手を交わし、またいつか会おうと誓った。


そう、これも後になって分かったこと。

“あの時のボクは無知過ぎた”


もう会えないって、臨はきっと分かっていた。
ボクたちみたいな人間は、一度買われたら一度嵌った地獄から抜け出せないことも、救われないことも。


でも、どうだろう。

あの時知っていても、ボクたちの運命は変わらなかったはずだ…

そう思えば少しは気が楽になれた。

全く楽になれなくてもなれた気がしたし、楽になりたかった。









オークション当日はスーツを着て舞台に立たされた。

隣で笑う臨にボクは励まされながら正面を向いて、自己紹介をした。

人前でぎこちなく、慣れないスーツを着てボクは自分を一生懸命伝えた。


優しい人にボクの声が届けば良いなと思いながら、特技や趣味を発表した。



「ありがとうございました!では、塚原奈緒さん・・・7千万円からのスタートです!」



カンッと木槌の鳴る音で開始されたオークションはかなり白熱している様子。

最初は嬉しく感じたが、値段が上がるにつれて必死な顔をするバイヤーの顔が恐ろしくて目を伏せてしまった。


そのボクの気を察したのか、力無い手を臨がギュッと掴んでくれた。



「平気だ。頑張れ、奈緒。」
「心配するな、怖くない。」
「俺が居るから、大丈夫。」



小さな声で何度も励まされながらボクは涙を堪え、静かになった会場を見渡した。



「22番様、おめでとうございます!どうぞ、舞台の方へお越しくださいませ。」

「・・・。」



拍手喝采の中、一番後ろの席から歩み寄って来たのは長身細身の眼鏡をかけたおじさん。

おじさんと言っても、40代前半くらい。

落札したのにもかかわらず、笑みも見せない凍てついた表情にボクは嫌悪感を抱いた。



彼が壇上に来て、姿がライトアップされる。
そこでやっと分かった顔色や雰囲気。

光に照らされ反射する眼鏡の奥の黒い瞳がどこか寂しそうだと思った。



「22番様、お名前どうぞ!」

「…何故、言わなければいけないのだ?」

「えっ・・・」



22番の一言で会場の空気は重くなり、予想外の出来事にドーフの社員さんも驚いていた。

初めて聞いた冷たく低い、切なげな声はボクの未来を不安にさせるだけ。
こんな人の下で働くなんて、ボクの運命は暗雲立ち込めるのだろうか。

口調からしてヒトをバカにしそうな人だ。

きっと上手くやっていけないだろうと諦めを感じた。



「名乗る必要は無いでしょう。それより早く取引をしましょう、ドーフさん。」

「あっ…は、はい。分かりました。では、塚原奈緒サンと22番様はこちらへどうぞ。」



明らか嫌な顔をしている男に気を遣い、焦るドーフの社員さんに連れられてボクは誓約書を書いた。

落札してからボクに目もくれない男は、アタッシュケースから1万円札の束をボンボン積み重ね、ドーフの社員を一瞥した。

彼がお金を渡している間、ボクはどうすることも出来ず、呆然とこの人と暮らす未来を暗影した。





[*Ret][Nex#]

あきゅろす。
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