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flower bloom



西大路氏の元から離れて時は過ぎ、ボクは父さんの意志を継いで工場で働くことにした。

再建した塚原工業は新たにお風呂用具の作製を依頼されて、売り上げも上乗。
とても上手くいっている。

長女の里緒ちゃんは就職活動中。次女の美緒ちゃんは今年から一人暮らしを始めた。父さんも母さんも変わらず元気で、塚原家に平和な日々が戻っていた。



「いらっしゃいませ!ようこそウエストプリンスホテルへ!」



大きなゲートに輝く綺麗なシャンデリア、赤と黄の西洋感溢れる模様の絨毯が引かれた地にボクは足を踏み入れた。

『ウエストプリンスホテル』

West prince hotelと筆記体で書かれた金字の看板に、口はあんぐり。

着替えてくるべきだったか、着ている作業衣がダサくてとても恥ずかしい。

正直ボクみたいな貧乏人が来るような場所じゃないなと感じた。



「いらっしゃいませ!」

「ぉあ、あっと…こんにちは!塚原工業の塚原和夫と申します。今日は業務の山崎部長にお会いしたいのですが、」

「はい。では、ココにお名前の記入をお願いします。」



綺麗な受付嬢の人に微笑みかけられて少し緊張しながら自分の名前を書いた。


今回何故ボクがココに来たか、理由は父さんのミス。

父さんはパソコンが大の苦手で文章もまともに打てない。
だから手紙や速達よりも早く届けるために製品名表を代わりにボクが届けに来たのだ。


一方、日本で有名な高級ホテルのウエストプリンスホテルさんはウチの取引先。
再建して二番目に製作依頼が来た大切なお客様だ。



「…つかはら、なお?」

「はい、そうですが…どうかしましたか?」

「いえ、今日は山崎部長への連絡で宜しかったでしょうか?」



受付嬢に再度確認されてボクは大きく頷いた。
名前を復唱されてあんなに驚かれたのは初めてだ。

特に変わった名前でも無いのに…“奈緒”だしまた女性と勘違いされたかな。



「塚原奈緒さん、ロビーで少々お待ち下さいませ。」

「あ、はい!」



受付嬢に誘導されボクはロビーで山崎部長を待った。
ロビーには大画面の液晶テレビが置いてあって、深刻なニュースが放送されている。

ゲートからはお金持ちオーラを漂わせるおじさんやおばさんが入ってきて、なんだか別世界に居るみたいで一人でワクワクしていた。



「こんにちは、塚原さん。」

「こんにちは、やまっ・・・ッ、く…國谷さんっ?!」



後ろから声をかけられて振り向くとそこに居たのは山崎部長ではなく西大路氏の秘書、國谷恵一さん。

西大路氏の側近がここに居るなんて、まさか側に本人が居るんじゃないかと警戒しながら辺りを見渡した。



「塚原さん、大丈夫です。道貴さんはいらしてません。」

「そ、そうですか・・・いや、お久しぶりです。今日はどうしてここに?」

「は、っと…当たり前ですよね。ココはウエストプリンスホテルですから。」



にやり、と名言。
“ココはウエストプリンスホテルですから”=お金持ちですから。

確かに、西大路氏はかなりお金持ちだった。
だから側近の國谷さんはプライベートか何かで泊まりに来ているのかなと思った。



「私が山崎部長の所へご案内いたしましょう。」

「あ、本当ですか!わざわざすいません、ありがとうございます!」

「さぁ、行きましょうか。」



國谷さんに連れられてボクは社員専用エレベーターに乗った。

目的階は最上階。何故か社員専用エレベーターに居る國谷さんとボク。

目的階の数字を見たときは少し不思議に思った。
山崎部長を知っている國谷さんも怪しいなと思った。


だけど特に深入りはせず、どんどん高くなる景色を楽しみながら平然と。

彼の元へ向かっていた。





[*Ret][Nex#]

あきゅろす。
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