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奈緒の身体は私のひとつひとつ余らず、総てと合致するほど凄まじく悦かった。

色に染まらぬよう繊細な身体には触れず、細心の注意を払って壊れ物を扱うようにゆっくり欲望を挿入すれば暖かい内壁で私の全てを包んでくれる。

其れ故、依存するよう病み付きになり毎晩帰って毎晩犯した。

そして、藤村と奈緒の関係に苛立っていた私は身体だけの関係に終止符を打ったのだ。


目の前には目隠しされた恐怖で戦慄く薄紅のくちびるがある。
あぁ、是非触れてみたい。

もし、重なったらどんな満足感に浸れるのだろう。
と、セーブ出来ない肉慾に徐々に近づける自分のくちびるは。

隙なく重なる…
ピッタリ合わさる私と、奈緒のくちびる同士。

恋人たちのようになっているのだろうか。
奈緒が絡めた指の空間をゆっくり握り埋めている。

今、彼をモノにしているのは藤村じゃない、私だ。

このひと時はこれまで感じたことの無い優越感に浸れる一瞬だった。




    ・・
『それはスキだからでしょ?』

「は、?」

『御主人様はボクが好きなんでしょ?』

「な、何をいきなり、くだらないことを…」

『でも、ボクは藤村さんが好きなんですよ?』

「そ、そんなこと言われなくても分かっている!」



口づけをしたその日から自分の中で奈緒が己の醜さに気づけとばかりに訴えるのだ。

否定出来ない感情を、渦巻く思いを、しつこく、繰り返し何度も何度も。


耐え兼ねた私は海外事業序でに約三週間、家を空けて自身を見つめ直すことにした。

が、冷めるはずの思いは会わないうち、触れないうちにどんどん拡がって私の心を苦しめた。

連絡しても返事は無い。

帰れば藤村に交接したと暴露され、いっそのこと奈緒を閉じ込めて、自分だけのモノにしてしまおうと人間的に堕落な考えをした。


最初から、金でつなぎ止める以外方法が無いから。

いや、それ以外の方法が分からないから。
報酬を増やせばもっと近づけると思っていた。

なのに奈緒はもう必要無いと言った。すれば、他に方法は見つからない。

小遣い稼ぎと口先で促しても怪訝そうな表情は変わってくれなかった。









藤村と交接したと聞いてから私の悋気は益々増えた。

家に帰れば一瞬の隙も与えず早々に犯した。
自分の証を刻むように激しく、どこか幼気に愛撫してやれば白い身体は面白いくらいしなやかに撓う。

それでも、犯す度に浮かぶビジョンは藤村に鳴かされて藤村に向かって可愛く喘ぐ奈緒の姿ばかりで。

それはそれは辛い光景だった。


彼を拓いたのは私だ。
なのに何故、他の、しかも自分より若くキレイな男に取られなければならないのだ。


彼を想ううちに私は気付いてしまった。
身体だけじゃない。

普通に、二人で作る普通の幸せが欲しい、と。


子供だましみたいだが、醜い脳裏に思い浮かんだのは何かモノを与えるということ。

しかし、私は彼の好みが分からなかった。



「國谷、奈緒は何が好きなのだろうか。もし機会があったら聞いといて欲しい。」

「道貴さん、私はあまり奈緒さんと接点がありません。ですから自分でお伺いした方が早いと思われますが…」

「私が聞いても多分答えてくれないだろうな。お前に任せたぞ。」

「しょ、承知しました。」



國谷に言われなくてもそれぐらい分かっていた。自分は毎日のように顔を合わせているのだからいつだって聞ける時間があることも。

だが、ごく普通の言葉を交えた会話は一度もしてこなかった。

何から伝えればいいか、どのようなトーンで問えばいいか。私には難題すぎて最後まで人間らしい言葉を奈緒にかけることは無かった。





[*Ret][Nex#]

あきゅろす。
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