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Nishiooji side.

金でつなぎ止める以外私には方法が無いから。
報酬を増やせば家族のため健気な奈緒は喜んでくれるだろうと思って何度も身体を重ねた。


初めは正直誰だろうと自分の欲望さえ満たせれば何でもよかった。

遊び半分でドーフヒルヨのオークション会場に足を運んで、藤村が絶賛した艶やかな黒髪、瞳のくっきりした中性的な少年。
300番を購入した。

藤村はどうしても使用人として受け入れたかったらしいが、そうはさせなかった。


私は思ったのだ…

美しい彼を一度でいい。
手に収めたらどんな気分になれるのだろう、と。

だから道義に外れた今、この上なく後悔するなんて思ってもみなかった。



「道貴さん。最近、藤村さんと塚原さんがとても仲良くしていらっしゃるようですよ。」

「ほぅ、そうか。初めに気に入ってこの家に招いたのは藤村だからな。仕事に支障が無いなら構わないだろう。」

「いや、それがですね…」



赤茶色に染まった短めの髪、垂れ目で背の高い私の秘書【國谷 恵一】(クヤ ケイイチ)

真面目だけが取り柄の彼は大人しい性格なのだが、その時は珍しくテンションも低かった。
長年、一緒に居るからよく分かる。何か気になることがあるのだろう。

私は透かさず國谷に問いた。



「どうした。」

「はっきりとはわかりませんが、とにかく藤村さんが仕事も疎かになるほど怪しいと他の使用人から連絡がありまして。」

「…ふむ、だから何だ?それを私にどうしろと言うんだ。一緒に働いているもの同士、仲が良いのは善いことじゃないか。放っておけ。」



強く言ったものの、情けない自分がぽつり。

彼と仲良く出来ないからか。
彼に優しく出来ないからか。

分からない。
分からない。
何が心を苦しめるのかすら分からない。

國谷の話通り藤村の非行には散散呆れたし、深く嫌だとも思った。



「申し訳ございませんでした。道貴さん、では今日のスケジュールを確認させていただ
「待て、國谷。お前や使用人が気になるなら主である私がこの目で確認しよう。藤村には連絡を入れず内緒で家へ帰ろう。その時、二人が変なことをしているようなら私がちゃんと注意する。それでいいか?」

「は、はい。わかりました…では、今夜の高千穂さんとのお約束は…?」

「彼は良い友人だから、キャンセルしても大丈夫だ。上手く言っておけ。」



そこまで言われると矢鱈気になってしまう。
並行して胸の痛みも治まらない。

高千穂氏との約束をキャンセルし、私は今夜二人を確認するため早めに家へ帰ることにした。









秘密で帰って来たので奈緒の出迎えは無し。

そろりと足を忍ばせてゆっくりリビングルームへ向かうと無邪気に話す奈緒の姿と笑顔を見せる藤村の姿が目に映った。



『奈緒さんのお友達、すごいですね!ギターなんて私は触ったこともないですよ。』

『えっ、藤村さん触ったこと無いんですか?それは意外だなあっ!ボクもちょっとなら出来るんですけど、バンド組んでまでとなると本格的で無理ですね…』

『じゃあ、今度好きな歌を紹介し合いましょうよ。お気に入りの歌手とかでもいいですよ。』



無垢な笑顔、若者らしい流行りの会話。
それを聞いていたらなんだか自分だけ一人、取り残された気分になって。

注意もせずただ綺麗に笑う奈緒の姿を見ていることしかできなかった。



『いいですね!ボクのオススメは断然、ドルフィ…!

『な・お・さんっ、それは次回のお楽しみ。またたくさんお話聞かせて下さいね。』

『んっ…藤村さんっ、』



唇に押し当てられた藤村の人差し指。これ以上言っちゃダメと藤村らしい優しい合図。

その仕種に奈緒は頬を染め、照れた様子。

自分の前では見せたこともない。生身の、人間らしい純粋な表情が胸をぐさり、ナイフの柄まで抉るように中心に突き刺さる。


求めていたことに気付くまで随分時間がかかってしまった。

が、後悔先に立たず。

悲しい関係を絶ち、完成された今を全てを元に戻せるなら私は何だってしようと思う。





[*Ret][Nex#]

あきゅろす。
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