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wither bloom



最初からお金で買われたお人形のボクは感情なんて持っちゃいけなかったんだ。

愛してるなんて言わなければ身体だけでも西大路氏に愛してもらえたのかな。それでもよかったといろいろ思い返せば、後悔で降り積もる胸。

ずしりと重い、きゅっと痛い。


ボクは翌日、誓約書を渡されて屋敷から出ていくように西大路氏の秘書【國谷 恵一】(クヤ ケイイチ)さんから宣告された。



「ここに名前と、これと同じ文章を記入してください。」

「國谷さん、契約解除は御主人様の御命ですか?」

「はい、御本人から私は承りました。全く同じ文の記入をよろしくお願いします。」



ボクが書き写した誓約書。
簡潔に言うと『会わない』『関わらない』『全て白紙に戻す』『外部に漏らさない』という内容。

それだけ西大路氏にとってこの日々は不本意だったと言うことが分かる。



「…書き終わりました。」

「塚原さん、ありがとうございました。荷物は全てまとめておきました。玄関までは私がお送り致します。」

「あっ、あの!御主人様は本当に来てくれないのですか?」

「申し訳ございません。塚原さん、お分かりいただけ・・ますよね。」



國谷さんを責めても何もならないって分かっている。

彼の命でこんなことになっているんだから。来ないのが当たり前だ。

本当にボクはバカだ。
最後の最後までちょっとは好かれているかもしれないと考えている。
無駄な感情を持ったボクを西大路氏はきっぱり捨ててくれたんだ。逆に感謝しないといけないのに。



「あの車にお乗り下さい。」

「あ、はい…ありがとうございます。」



スーツを着たボクは玄関まで國谷さんに送ってもらった。
外には最初と同じ、黒くて長い外車が止まっている。
それを見てやっとボクは現実を理解することが出来た。



「待って!奈緒さん、本当に、本当に行ってしまうのですか?」

「…藤村さん。」

「私は道貴様に頼まれて来ました。…私も、私も奈緒さんと外へ行きます!國谷さん、お願いします!行かせて下さいっ!」



屋敷からやって来たのはこのセカイで唯一、ボクに温もりをくれた藤村さん。自分も行くなんてボクの為に変な事言って。

結局、西大路氏はボクが彼を好きと誤解したまま。
ボクの気持ちなんて分かっていなかった。


選ぶ道はこれ以外残されて居ないのだけれど、車に乗ったら全て終わると思って嫌に後ずさりしていた。



「奈緒さん、?」

「くや、さんっ…ふじむらさんっ・・・」



つまり泣きそうだった。

関わりはそんなに無くてもいつの間にか西大路氏を思っていた。自身、どうしたら好かれるだろうって必死に考えていた。

大切にされたい。
好きになってもらいたい。
ずっと貴方と一緒に居たい。

感情が取り巻く渦に見つけた答えは貴方への想い。


会いに行って、気持ちをもっとたくさん伝えたかった。



「ッ…大丈夫ですっ、國谷さん、藤村さん。お世話になりました。御主人様にもお元気でとお伝えください。」

「そんな、奈緒さん!」

「たくさんありがとうございました、藤村さんもお元気で…」



新しい世界に居ない藤村さんの優しさに甘えてはいけない。

思い出せば思い出すほど切なくなるから。彼とも笑ってお別れしようと思う。



「…最後に、悪魔で個人的な考えですが申し上げます。道貴さんがあれ程“人”に惑わされた姿を見たのは長く秘書をしていますが、初めてです。きっとこれは貴方を思っての結果でしょう。気を落とさず塚原さん。約4ヶ月、お疲れ様でした。」

「…はい、ありがとうございました。」



こちらへ進む藤村さんに向かって首を振り、ボクは革張りのソファに腰を落とした。

いつも居た部屋は明かりが灯っていなくて寂しい。
それよりも何よりも、國谷さんの言葉に胸を打たれたボクは気がつけば涙をボロボロ流していて。

彼と居た日々を思い出しながら、初めに望んでいた元のセカイに帰っていった。





[*Ret][Nex#]

あきゅろす。
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