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この生活を続けていつのまにか二ヶ月。
西大路氏との薄い触れ合いは終わりを告げていた。


その姿を自由になったボクの瞳ははっきり捕えた。

朝、目覚めたら居ないはずの彼が規則正しく、安らかな寝息を立てながら隣で眠っている。

不思議に想いながら身体を半分起こして彼の額に手を触れてみた。


西大路氏は父さんとあまり歳が変わらない。

顔には皺があるけれど、かっこよく、寝顔はとても綺麗だ。
口を開けてグーグーいびきを立てる誰かさんとは大違い。


こんなに見た目もよく、お金持ちなのに何かが足りない。

もっと性格が良かったら人に好かれただろう。
彼の性格の悪さを咎めているわけではないが、人当たりがよかったら完璧なのに。

西大路氏はいろいろもったいない人だと思う。

ボクの大切な主だし、貶しているわけじゃないけど、本当にそう思う。



「おはよう…」

「おはようございます、御主人様。今日は珍しいですね…こんな時間までここにいらして大丈夫ですか?」

「…少し水を飲んでくる。お前はそこで待っていなさい。」

「かしこまりました。」



大丈夫か気を遣っても無視、ボクの顔も見ずにそそくさとキッチンへ向かった西大路氏。
ひんやり冷たく効き過ぎた冷房を止め、ボクは再び布団へ潜った。


藤村さんとの関係を誤解されてから一ヶ月、あの日から彼は進んでボクの身体に触れるようになった。

だけど視界を遮られることは変わらない。
その所為で切ない想いは膨れ上がるだけ。

愛が無いセックスに付け加えて撫で回される肌。命令されればきちんと従う自身。烈しいピストンに耐えられず、必死に喘ぐ淫らな身体。


一ヶ月、一ヶ月間仕込まれてボクは完璧に西大路氏専用の性奴になった。



『懇願しなさい』

そう言われれば、既に濡れてびちょびちょのアナルを彼の前に突き出し、中に挿れてください。とお願いする。


そうやって、汚い性奴になったボクをどう思ってるのだろう。

って、元々ボクへ特別な感情は彼に無い。
それだけは自信を持って言える。

身体だけの関係に変わりは無い。
ただ、気まぐれで身体を撫でてみたくなっただけであろう。


彼は“気紛れ”で上手く通り抜けられても、ボクはそうはいかない。

実は自身、心のどこかで好きになってもらえることをひっそり願っている。









昼過ぎて、仕事へ向かおうとした西大路氏は、ボクの体調を気遣ってくれた。

顔を覗き込み、ベッドで項垂れるボクの頬を撫で大丈夫かと聞いてきた。

心配かけまいとボクは「大丈夫です」とだけ言って再び臥せた。


行為が終わった後にも関わらず優しくされるなんて、珍しいこともあるもんだ。
些細な声掛けに胸はときめき、鼓動を落ち着かせるため干し立ての布団の香りを嗅いだ。



「失礼します…」

「あっ!藤村さんッ、おはようございます!って…もうこんな時間だからこんにちは…ですかね!」

「・・・。」



部屋に入ってきた藤村さんは眉間に皺を寄せ、険しい顔で閉じたドアの前に立ち尽くしていた。

その怖い表情はどんどん近づき、ついには目と鼻の先ほどに。近寄る整った顔に驚いたボクはゆっくり後退りした。



「奈緒さん、もう取り返しのつかないことになりましたね。」

「・・・え?」

「中途半端な時間ですがお食事の用意が出来ていますよ。」

「は…はい。ありがとうございます。」



不自然な言動に首を傾げつつも、ボクは食事をするためベッドから起き上がった。
藤村さんの足取りはいつもより早く、明らか様子がおかしい。


声をかけるにもかけられない暗いオーラを取り巻く彼の後をボクは必死に追いかけていた。





[*Ret][Nex#]

あきゅろす。
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