艶事ファシネイト
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鬼形と河辺に任せた品質管理は特に問題無く、午前中の最終確認を終えた。
午後からはオークションのリハーサルと会場確認があってまだ落ち着いていられないオークション課のメンバーは、近くのレストランにランチへ向かった。
保管所に行ってから誰が話しかけても時枝は無視。
らしくない様子でずっとぼーっとしていた。
「時枝課長・・・どうしたんだろうね?」
「奥さんとケンカでもしたんじゃない?」
「違うよ、とてちてた課長はののちゃんが気になってるんだよ。昨日も途中で連れ去って一体何をしていたのか・・・怪しいだろっ?」
鬼形の冗談を全く聞いている様子も無い時枝。
確かに彼の頭の中は野々宮でいっぱいだった…
それを振り切る様に時枝は豪快にパスタを押し込んだ。
「鬼形、殺されたいのか?」
「ひぇえ・・・す、すんませんでしたぁ…」
「俺には妻が居るんだぞ?皆が誤解するような事を言うな。」
完璧に時枝は焦っていて、自分がやった昨日の行いに喝を入れながら鬼形を叱責した。
「まぁ、いい。何も無かったのが事実なのだからな。ほら、食べ終わったらさっさと会場を作るぞ。」
時枝の機嫌が悪くなったので、鬼形は周りの同僚からどつかれるのであった。
・・・・・・・・♂
会場はドーフの隣にある大きなヒルヨホールで行われる。
ドーフでは常識だが、普通のホールではない。
完璧に悪い匂いがする(ある資金で建てられた)素晴らしく広いホールだ。
担当を降りた時枝は客席で鬼形や河辺の動きを指導した。
今回の司会は河辺、進行係・競売人は鬼形になった。
ドーフ・オークションのやり方は公開入札方式のイングリッシュ・オークション。
買い手がどんどん値段を上げ、最高落札者に商品を渡す。
ごく一般的なオークション方法で分からない人が見ても面白くとても分かりやすいオークションだ。
「じゃあ、リハーサル開始。」
先頭を切ってセンターの席でスタートコールをした時枝。
リハーサルは商品の動きも確認しながらどのくらい時間がかかるかタイム測定もされる。
実際、買い手に真似て競りもするため余裕は無い。
「では、商品の皆さんは一番から横一列に並んでください!」
「ほぉら、ののちゃんもちゃんと並ぶんだよ。」
「うぅん、ううぅ・・・やゃっ…」
いやいやと言いながら地団駄を踏む野々宮を見ていた周りの商品も社員も首を傾げた。
遠くから見ていた時枝はいろんな衝動を抑え、動かずじっと様子を見つめている。
「おい、鬼形。そいつはアメでも食わしとけ。甘いものが好きみたいだからな。」
「分かりました。おーい、河辺!!アメちゃんちょーだい!」
「はいはいっ…!」
河辺が持ってきたアメはオレンジ色の棒キャンディー。
それを落ち着かない様子の野々宮に渡した。
「ぅうっ!みかん、おいちっ…」
ほっぺをぺちぺち叩きながら美味しさを表現している可愛い野々宮…
社員も他の商品も不思議な空気に包み込まれ皆、ニコニコ。
そして、その不思議な空気に完璧に洗脳された男が一人…
可愛い…
かわいい、ののみや。
きれいな、ののみや。
愚かな時枝の思考回路の中で木霊する野々宮の告白。
『とちえださん、すち。』
元気に外を駆け回る野々宮。
自分に手を差し延べてにっこり笑う真っさらな姿…
「課長!始めますけど、配置大丈夫ッすか?」
「課長!進めますけど…聞いてますか?」
「課長!」
ぐるぐると時枝の中で駆け巡る美しいたくさんの野々宮の姿。
当たり前だが時枝独善の完璧な妄想である。
『とちえだしゃーんっ!』
「…あっ?」
「おっ、やっぱ振り向いた!課長の最終兵器はののちゃーんみたいっすね♪時間無いんで始めますよ〜!」
野々宮に大声で名前を呼ばれた時枝は鬼形にあぁと小さく返事をした。
そして自分に向かって手を振る野々宮には、膝の辺りで小さく手を振り返していた。
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