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艶事ファシネイト




階段を5階分に降りただけで疲労感たっぷりの34歳は、息を切らしながらも地下にある保管所へ向かった。


地下にある人間オークション課専用保管所は30人の商品を収容する事ができ、食べ物や服も充実しているため不自由では無い。

自分は住みたいと思わないが、決まった時間においしいご飯を用意してくれるし、お風呂場も部屋も広く綺麗な保管所だ。



「時枝課長、汗びっしょりじゃないですか!!」



「っく、俺も歳みたいだ…」



「エレベーター使えば良かったじゃないッすか〜そんな焦って・・・ののちゃん心配しに来たんすね?」



「・・・俺が焦って、心配?」



鬼形に言われるまで全く気が付かなかった時枝。


確かに、エレベーターの方が地下へ行くには楽なのに何故階段なんか使ったのだろう。




「まぁ、いいや。時枝課長・・・ののちゃん、さっきからね≪あわいもにょ≫が欲しいって言ってて…一体なんなんすかね?分かりますか?」



「いや、分からない。」



時枝の視線の先「24」と書かれた檻の中、あの時と同じセーターと自分のジャージを履いて蹲る小さな野々宮の姿。



それは今まで感じた事の無い激痛…


心を素手でぎゅっと鷲掴みにされたような惨い痛みが時枝を包みこんだ。









「野々宮、トチエダだ。欲しいものがあるなら言いなさい。何でもやるぞ。」



「んぅぅ・・・とてちてたしゃん?」



「…ぶ、ぶははっ!今度はとてちてたかよ。ののちゃん、おもしれぇな〜!!」




思わず赤面したとてちてた。

目を細めた野々宮の視線に胸がドキドキした。





「お、お前の言う≪あわいもにょ≫とは一体何の事だ?」



「・・・あわいもにょ!あいしゅとか・・・くっちーとか!」



こくこくと頷きながら柵の近くにやって来た野々宮は嬉しそうに時枝を見つめて言った。


どうやら彼はアイスやクッキーなどの甘いものが食べたかったらしい。



把握した時枝は後ろに居た管理人にすぐ手配するよう命じた。



15歳でこの様子・・・
やはり頭が少し弱いみたいだ。

幼稚園児みたいな喋り方と年相応の見た目。


ギャップがあってこれはこれで売れると思うが、人間の権利に反している気がして時枝はやるせない気持ちになった。






「ほぉら〜ののちゃぁん・・・あいしゅとくっちーですよ!」



「うぅんんっ、オニしゃん…おいひぃ!」



「うひょ〜かわえぇなぁ…」




鬼形の名前は間違えず呼ぶのか…


ほっぺをぺちぺち叩きながら、美味しさを表現する幸せそうな野々宮の笑顔を見て居ると心がすーっと落ち付いた。

対してそんな彼を明日、売らなきゃいけないという罪悪感が時枝を悩ませた。


自分の体制が悪いと思った事は無い。


今までだってかわいい少年や青年もたくさん競売にかけてきた。





しかし野々宮は特別。


彼から放たれる不思議なオーラが時枝の少し残った良心を穿り返すのだった。





[*ret][nex#]

あきゅろす。
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