艶事ファシネイト
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鬼形から渡された商品リストの24ページ目。
野々宮 昴(15)
買い取り価格 358万円
スタート価格 716万円
この数字は今まで見たこと無い最安値だった。
買い取り価格×2がスタート価格になるのはドーフ・オークションでは当たり前のこと。
こんなに少ない数字からのスタートじゃ上げてもそんなに取れないだろう。
少し脳に障害があるかもしれないが、あの容貌だ…
みんな欲しいに決まってる。
お宝商品を目利きもせずに無料で引き渡すようなもんだと時枝は想った。
品質も上級で何より美しい野々宮が出品者と鬼形の間で超最安値で取引された理由が時枝には理解出来なかった。
だから余計に嫌だった。
胸の奥から沸き上がる何かが時枝を苛立たせる。
普通、出品者は借金に溺れた身内が息子やそこらへんの孤児を売ることが多い。
品質がよくとも悪くとも金欲しさに億で売り付けてくる出品者も居るくらいだ。
そういう者には品質を査定した上で社員が交渉した。
時枝も何度も経験したことがある…
自分は一億で家族を救いたい。
だから買い取って欲しいと商談する中年親父も居た。
常識的に歳だと長年使えないことがハードルとしてあげられるため一億での買い取りは不成立となる。
(顔が良かったり、身体が綺麗なら話は別。)
すいませんがこのぐらいで…と断った時枝に泣き縋る中年親父の落ちぶれた顔を見て、内心彼はほくそ笑み続けていた。
そんなヤツに比べたら野々宮は一億…いや、それ以上でも十分売れる。
時枝は変に自信を持ちながら、鬼形に渡されたデータを自分の希望通りの値段に改竄した。
野々宮 昴
買い取り価格 一億円
スタート価格 二億円
・・・・・・・・・・・♂
いつもの調子で帰宅した時枝を笑顔で迎えたのは妻・由利香。
絵に書いたような美しさを持つ彼女は礼儀正しく、評判もとても良い。
「貴方…今日は一度、家に帰って来たのかしら?」
「えっ?」
「…いえ、何でも無いわ。」
意味深な態度を取る彼女に全て見透かされた気がした時枝は、不安を紛らわす為に後ろからギュッと由利香を抱きしめた。
由利香は文句一つ言わない優しい女性だから…時枝は余計に心配になるのだ。
確かに今日は一度家に帰り男とセックスをした。
でもたった一度だけだったし、愛を持って抱いたわけじゃない。
仕事と捉えれば仕方の無いことだった…
事実を言えない時枝は頬にキスを落とし、俯く由利香に語りかけた。
「由利香…今日もしよう。俺、風呂入ってくるから。」
「・・・えぇ、待ってるわ。」
にこっと由利香に微笑みかけた時枝だったが、脳裏には【野々宮 昴】の美しい顔がこびりついて離れなかった。
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